184,467,447,379,551,616 人の話者
1977 年 8 月 15 日は,人間にとって記念すべき日となりました。汎銀河連合と人間が,最初の接触を果たしたのです。問題は,人間が汎銀河語を理解できないということです。そこで人間は,チョムスキーの生成的文法に従って,42 人の赤ちゃんを,彼女らの家族とともに汎銀河連合の本部,すなわちソンブレロ銀河へと送りました。赤ちゃんは育った土地の言葉を学びます。したがって,彼女らは汎銀河語を習得して帰郷することが期待されます。
赤ちゃんとその家族たちは,汎銀河連合の宇宙船に搭乗し,木星の衛星エウロパに建てられた基地からソンブレロ銀河へ出発しました。20 年後,彼女らは汎銀河語の教師とともに地球へ帰ってきました。人間は汎銀河語を学びました。いいえ,人間は汎銀河語を 6 年間勉強しても,まともに話せるようになりませんでした。どれくらいの人間が汎銀河語を話せるようになりましたか?たぶん,10%未満です。人間が汎銀河語を話せない理由は,主に 2 つあります。1,地球には,汎銀河語を上手に話せる人が少ないです。2,地球で汎銀河語を話す必要がないので,人間はその言語を学ぶ必要を感じません。
「ええと,」
亀があなたの話を遮りました。「あなたの一息が長いので,私はあなたの話を理解することが困難です。」
あなたは亀に言いました,「私は普段通りの話し方をしているつもりです。」
「それは困りました。」亀は言いました。「見てのとおり,私はあなたより頭が小さい。そのため私はあなたより物忘れの程度も甚しい。したがって,あなたは私が理解できるように説明する必要があります。」
「どうすればいいですか?」
亀は言いました,「一つのアイテムを私が覚えつづけることは,さほど困難なことではありません。あなたの物語の要点は何ですか?」
あなたは言いました,「私の話のコアは,万能翻訳機が地球に導入された歴史です。」
亀は言いました,「その歴史で一番注目すべきところはどこですか?」
「うーん,」あなたは考えてから言いました,「おそらく,万能翻訳機を人間に紹介した地球人グラハムの議論です」
それを聞いた亀は言いました,「ではその話をしてください。」
あなたは不満を持ちました。「その議論に至るまでの間に,色々な伏線があります。その話がなければ,物語の魅力が十分に伝わりません。」
亀は瞬きをして言いました,「ええ,そして私は全ての話を忘れるでしょう。」
あなたは亀の頭を指でつつきたい願望を持ちました。なんと生意気な亀だ。
グラハムはソンブレロ銀河で汎銀河語を学び,万能翻訳機を持って地球に帰ってきました。彼女は識者の前で万能翻訳機を使いました。識者はグラハムの話し方が異常なので質問をしました。
「あなたの話す言葉は私たちの日常会話とかなり違います。」
グラハムは答えました,「地球人の数は,汎銀河語を使用する人数よりもかなり少ない。万能翻訳機はレアな言語の翻訳精度が低いです。したがって,万能翻訳機を使うとき,私たちは私たちの言葉遣いを調整しなければなりません。」
識者の一人が言いました,「汎銀河語の話者は何人いますか?」
グラハムは答えました,「昨年,汎銀河連合は汎銀河語の話者が 184467447379551616 人いると報告しました。」
識者の一人が言いました,「数字の桁が多すぎる。」
別の識者が言いました,「180000 兆人。」
別の識者が言いました,「グラハム博士,全ての地球人がその機械を適切に使うと,汎銀河語の翻訳者全員が失業します。」
グラハムは言いました,「心配ありません。コンピューターのテクノロジーが発展するほど多くのプログラマーが必要になります。統計学のテクノロジーが発展するほど多くの統計学者が必要になります。同様に,この機械のユーザーが増えるほど,もっと多くのプロの翻訳者が必要になります。」
別の識者が言いました,「機械に合わせた言葉遣いは,私たちの言語文化を歪める。」
グラハムは言いました,「はい。『 MARAMIKHU 』という言葉を知っていますか?」
識者の誰もその単語を知らなかった。
「夢の世界,そして死後の世界という意味です。MARAMIKHU は夢と死を区別しません。この言葉はインドのアンダマン諸島で使用されていました。しかし今はこの言葉は使われていません。なぜならこの言語の話者が絶滅したからです。もし私たちが私たちの言語を歪めたくないからといって,誰も私たちの文化を他者へ伝達しないならば,いずれ私たちの言語や文化も MARAMIKHU と同じ運命を辿るでしょう。」
「ええと,」
亀があなたの話を遮りました。「私は議論の帰結を知りたいです。人間は万能翻訳機を使うようになりましたか?」
あなたは言いました,「いいえ,万能翻訳機は不完全な装置とみなされました。したがって,人間は汎銀河連合にプログラムを改良するよう要望を送りました。」
亀は言いました,「それでどうなりましたか?」
あなたは言いました,「汎銀河連合は要求を拒絶しました。」
亀は首をかしげました,「どうして?」
「万能翻訳機が使えるほどに発達した文明は,汎銀河連合が改良したプログラムを届ける前に崩壊するからです」
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