05 - EeePCとEmacsとインターネットと
その日,私がマウスでブラウザを操作していると,EeePCが聞いてきた。これまで向こうから話しかけてくることなどなかったのだが,私に心を…心?コンピュータに心?とにかく,開いてくれたのだろうか。
「君は時々ブラウザを使っているな。それなら他のコンピュータで良かったんじゃないのか」
「これは私の文章がどう見えるか確かめるためだよ。普段は使わない」「普段は?…ああ,普段はewwか」
eww – emacs web wowser。emacsに標準でついているブラウザである。
私はewwで検索をしてみせた。duckduckgoだと検索結果が見づらいのでgoogleを使うよう設定を変えてある。
「速いな」テキストブラウザの名のとおり,本当にテキストのみである。ゆえに圧倒的に速い。
「でも阿部寛のホームページが見れない」
「それは実に残念だ」
阿部寛のホームページはtableタグを使用しており,ewwが対応していないため,正しく表示されないのだ。
「確かewwは画像表示もできたはずだが」「nov.elを入れればepubも読めるよ」「ふむ。だとするとなぜここでは表示されていないんだ?」「レイアウトが崩れるし重いから非表示にしてる。gifがあるページだと重くなるし」
ewwはgifアニメーションに対応しているかわり,異様に重くなるという欠点がある。だから普段は非表示にしておいて,画像は必要に応じて閲覧する。
「ewwをテキストブラウザとして使っているのはわかった。それにくらべてこのブラウザは何だ」「Vivaldiのこと?」「本当に遅いな」「失礼な。遅いのは君のせいだよ」「うーむ。我ながらじれったくなる」「でしょ?ブラウザ使うのが億劫になってこない?」「確かに」「だから君を使うんだよ」
「そうか。そういうことか」EeePCはようやく自分の役割を理解したようだった。
ブラウジングのストレスを下げるために世界中のIT技術者が日夜血のにじむような努力をしている。だが快適に利用できてしまうと,ついつい不要なページも見てしまう。水が高い所から低い所へ流れていくように,やがて布団の中でさえもインターネットにのめりこんでしまう。それを断ち切るためにキングジム社のポメラが世界中で大活躍していることは誰もが知るところであるが,インターネットを絶つと,些細な検索さえもできなくなってしまう。私がEeePCに求めた「テキストブラウザのついたワープロ」というのは,「tips程度の些細な検索を許容しつつ,のめりこめるほどは魅力的でないインターネット環境を持つワープロ」であった。
たとえば,どうしても見たいページ,noteやmediumなど,Javascriptがないと表示されないページやプレビューの際は通常のブラウザを使うが,とても常用には耐えないし,そういったページならスマホやタブレットで見ればよい。ただそれだけで留められればよいが。
「では検索はewwでするとして,githubはどうやって管理するんだ」「magitとかmagithubがあるよ」「メールは」「mew」「twitterは」「twit」「全然規制できてないじゃないか。じゃあInstagramは。Redditは。Slackは」「ワープロとして使おうとしてるんだからそこまで求めないでよ」
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