Spacemacs の ささやき

Spacemacs の ささやき

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    • 05 - 惑星防備録

    05 - 惑星防備録

    「ねえ,作品のタイトルなんだけど」

    私がログを読み直しながら EeePC に話しかける。「何だ」「『アナスタシア美貌録』と,『惑星防備録』,どっちがいいと思う?」「どっちも却下だ。なんだアナスタシアって。そんなに麗しいのか」「主人公の名前。美人かどうかは知らない」「知らないって…。それに,そもそもそんな名前だったか?名乗ったシーンなんかなかったはずだが」「いま思いついた」「…」

    私の無計画さに EeePC はため息をつく。「…はぁ。惑星防備録は?何から守るんだ」「この星にDocusaurusっていう怪獣が襲来してくるから,Spacemacs を設定して防備を固めなきゃいけないの」「ん?Docusaurus はソフトウェアだろ?」「怪獣」「どこが」「Javascript だから」「どうして Javascript だと怪獣になるんだ」「私が Javascript 書いたことないから」「…それは大変だ」「しかもすでに襲来した」「おい。手遅れじゃないか。被害は」「とりあえず撃退した」「おお」「でも私の寿命を半分くらい持っていかれた」

    EeePC の天を仰ぐ様子が伝わってくる。「君はプログラム言語を学ぶたびに寿命が縮んでるな」「R と Python は寿命が伸びたよ」「私が知っているだけでも君の寿命は残り数年くらいのような」「私が長命なエルフ族だったらなんとかなるかもしれない」

    くだらないやりとりに EeePC はうんざりする。「君がそうであることを祈るよ。そろそろ Spacsmacs の設定記録を作ろうか」

    インストール

    「インストールの方法については前にもやったんだけど」「ほう」「いちおう復習ね」

    git clone https://github.com/syl20bnr/spacemacs ~/.emacs.d
    


    「開発版を使いたい野心的な人はこっち↓」「開発版は何が違うんだ?」「最新を追いつづけたい人。 Arch Linux が好きな人とか,Vim のビルドを日課にしてるような人とか」

    git clone -b develop https://github.com/syl20bnr/spacemacs ~/.emacs.d
    


    「もしコマンドの意味がわからなかったら,ダウンロードしたファイルを解凍してフォルダ名を ".emacs.d" にすれば良いです」「これだけか?」「うん」「Mac や Windows は」「Mac もこれでいい。Windows は Windows Subsystem for Linux を先に学んだほうがいい」「Spacemacs は」「先に学んだほうがいい」「Sp」「先に学んだほうがいい」「どうしても説明したくないんだな…」

    .emacs.d/private/japanese/packages.el

    「なんと!」「いきなり大声を出すな」「Spacemacs には!」「おう」「日本語用の設定を作成された方がおられます!」「おおー!」「ぱんぱかぱーん!」「いやはや,素晴らしい」「package.el をダウンロードしたら,.emacs.d/private 内に japanese フォルダを作って入れてください。あと開発版の場合は下の configuration-layers に書くだけでインストールしてくれる」


    「あ,ひとつ注意!」「何だ」「migemo の場所は使ってる Linux によって違う」「migemo か…」EeePC は 過去の理不尽な仕打ち を思い出し,声が低くなる。

    「Ubuntu の場合はそのままでいいんだけど,たとえば私が ThinkPad に入れてた Manjaro の場合は"/usr/share/migemo/utf-8/migemo-dict" にあるので,各自の環境にあわせて package.el を書き換えてください」

    .spacemacs 用のコマンド 2 種

    「普通の Emacs だと.emacs.d/init.el で設定するんだけど,Spacemacs はホームフォルダにある.spacemacs を編集する」「ふむ」「知っておくと便利なコマンドが 2 種類あるので紹介します」

    • .spacemacs を開く: SPC f e d
    • .spacemacs を再読み込みする: SPC f e R (R は大文字)

    dotspacemacs-configuration-layers

    「.spacemacs を開くと最初の方にこの章の見出しと同じ dotspacemacs-configuration-layers って項目があります」「ほう」「はじめは helm とか auto-completion とかがコメントアウトされてるんだけど,コメント外して再読み込みすると,必要な機能を勝手にインストールしてくれる」「便利だな」「封じられた力を解除するみたいでかっこいい。そうそう。さっき日本語設定のファイルを入れたでしょ?」「ああ」「それもここに追加する」「なるほど」「たとえばこんな感じ」

       dotspacemacs-configuration-layers
    '(
      javascript
      ;; ----------------------------------------------------------------
      ;; Example of useful layers you may want to use right away.
      ;; Uncomment some layer names and press <SPC f e R> (Vim style) or
      ;; <M-m f e R> (Emacs style) to install them.
      ;; ----------------------------------------------------------------
      helm
      auto-completion
      better-defaults
      emacs-lisp
      git
      markdown
      org
      (shell :variables
              shell-default-height 30
              shell-default-position 'bottom)
      spell-checking
      syntax-checking
      version-control
      japanese
      )
    

    dotspacemacs-additional-packages

    「パッケージを個別に入れたいときはここに書けばインストールしてくれる。ただし melpa とかに登録したもの限定」「自作のプログラムはどうするんだ?」「このあと説明するよ」「おう」

    dotspacemacs-additional-packages '(
                                    twittering-mode
                                    wc-mode
                                    yatex
                                    exwm
                                    switch-window
                                    )
    

    「ひとつ言い訳」「何だ」「Spacemacs にはウィンドウを移動するためのace-windowが入っています」「ふむ」「なぜ私が機能のかぶるswitch-windowを入れているのか」「なぜだ?」「ace-window は今開いているバッファにショートカットキーを表示するんだけど,EXWMはその上に Nautilus とか Firefox とかを表示するから,キーが背後に隠れちゃって見えない。switch-window は画面を隠してショートカットキーだけ表示するから平気」

    dotspacemacs-editing-style

    「インストール時にたずねられるんだけど,ここで変えることもできます。emacs, vim, hybrid の三種」

    dotspacemacs-default-font

    「フォントはここで変えます。デフォルトは Source Code Pro」「君は?」「私が小説書くために作ったやつ」

    dotspacemacs/user-config

    「Emacs の設定とか自作プログラムはここに書く。ゴリゴリ書きたいならレイヤーを作ったほうがよさそう」「レイヤー?」「設定集みたいなもの。上にあった helm とか javascript とかがそう」「ふつうの書き方とは違うのか?」「少し違う,けど,ほとんど書けない私でも理解できるからだいじょうぶ!」「わかった」

    そして逆襲してくるもの

    「こんなものかな」「これだけか?」「だいたいね。だって,Spacemacs ってもともと入れてすぐ使えるようになってるものだし」

    「そうか。…」

    突然 EeePC が黙りこんだ。その様子から意図を察した私は,どうしたの,とは聞かない。やや時間があって,我慢できなくなったように EeePC が言う。

    「私に入れる予定はないか…?」

    予想どおりだ。私はここぞとばかりに腕組みをして悩むふりをする。「うーん,重いからなあー」「い,いくつか設定を切っても,だめか」「うーん,どうかなあ。必要な機能ばかりだしなー」

    「そうか…」

    珍しくしおらしい姿の EeePC。思わず私は吹きだす。「ふふ,冗談だよ」「え?」「実は君のためにいろいろ調べておいたんだ」「そうなのか?」「うん。Linux Mint Debian Edition 3の正式版がリリースされたら試してみようね」「それ,君が以前,私に入れようとしていたやつじゃないか」「そう。EXWM を使う予定だから,見た目はこれまでと変わらないと思うけど」

    私が今でも気にかけていること。古いマシンだからって置き去りにしていないこと。そのことに EeePC は喜びを隠しきれずに言う。「…ありがとう。私のために。うれしいよ」


    そのとき,ThinkPad の画面が灯った。ターミナルに出力されているのは…

    「Docusaurus がまた攻めてきた!」「なにっ」「すぐに ThinkPad を元に戻さなきゃ…」

    ひとつのミスが命取りになる。私は EeePC と相談しながら慎重に ThinkPad のキーボードを叩いていった。

    -- 了 --

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