02 - Crostiniの葛藤
「すごいね、君、セットアップが終わっても300MBくらいしか使ってないよ」
私はChrome OSの小ささに驚いた。これなら保存容量が16GBでもなんとかなりそうだ。
『はいマスター!ありがとうございます!』
「あー…」私は頬をかく。「その『マスター』って言い方、やめない?私そんな偉くないよ」
『はぁ、では何とお呼びすればいいでしょう』
「そうだな…」
私はEeePCを見て言った。「ねえ、君は私のこと、何て呼んでる?」
『え?君のことか?』ふいに呼ばれたEeePCは変な声を出した。
思わず私は吹き出し、こんどはThinkPadの方を見る。ThinkPadは 『Emacsのチュートリアルをプレイ。』 で加わった、優秀なアシスタントだ。
「ねえ、君は私のこと、何て呼んでる?」『ゴミ』「スクラップにしてやろうか」『あなた、です』
はあ。あきれた顔を元に戻し、私はC202SAに向き直って言った。「こんなふうにさ、私は君の主人でも何でもないから、もっと気楽に呼んでよ」
『え、ええと』予想していた主従関係と違い、慌てるC202SA。『…じゃあ、『あなた』とお呼びしてもいいですか?』「もちろん!」
私が笑顔で答えると、C202SAはほっとしたように見えた。
Files.app の落とし穴
「ぐ…」
先の笑顔からほどなく、私はGitHubのWebページを開いたまま、苦悶に満ちた表情でC202SAのタッチパッドに触れていた。
「くぅ…」
ChromebookのファイラーからChromeにフォルダのドラッグアンドドロップができない。これではGitHub Pagesで作品の更新ができないではないか。GNOMEのファイラ やMacのFinderからはできていたはずなのだが。
『とらとらTravis』での試行錯誤を経て、私は『あの黒い画面』に頼らないGitHubの使い方を身につけたと思っていた。けれども、仮にセキュリティ上の理由だとしても、ファイラーからフォルダのアップロードができないのであれば、フォルダ操作のためには『あの黒い画面』に頼らざるを得ない。
どうしても私は『あの黒い画面』から逃れられないのか。
『ちょっといいですか?』苦しむ私にいてもたってもいられずC202SAが助け舟を出した。『Crostiniという機能をご存知ですか?ChromebookでもLinuxのソフトウェアが使えますよ』
「そ…!」怒鳴ろうとして私はこらえた。「知ってる…けど、使いたくない」
Linuxのソフトウェアを使いたいならLinuxのパソコンでいいし、Androidのアプリを使いたいならAndroidのタブレットでいい。
私が使っているのは…Chromebookなんだ!!
「うわああああああああああああ!」
「うわああああああああああああ!」
「あああ…」
「堕落だ…」
私は肩を落とし、うなだれた。理性とは裏腹に本能が『あの黒い画面』を導入してしまう。
「…」
「…ねえ」『はい!』
闇に染まりきってしまった私の心は止まらない。
「CrostiniとGoogle Driveの連携ってできるのかな」『もちろんですよ!』
「ひひ…」
「ひひひ…」
「おお…」
「こォー…」私は自らの業の深さに頭を抱えた。GitHubのリポジトリをGoogle Driveで扱うなんて、なんて罪深い行為なんだ。しかも無垢な新人アシスタントの容量を1GB以上も使い、こんな非道な行いの手伝いまでさせてしまった。
C202SAの心配そうな声が聞こえる。『あの、大丈夫ですか?具合が悪そうですが、休憩しますか?』「平気だよ…ありがとう…」『無理しないでくださいね!』
親切な気遣いに私は微笑んだが、内心、敗北した気持ちでいっぱいだった。
くそっ。
こうなれば、『あの黒い画面』と地獄の果てまで付き合ってやるぞ。
(c) 2019 jamcha (jamcha.aa@gmail.com).
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