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リフテンの門のそばに煙がのぼっている。火事ではない、人の営み。湖のほとりにキャンプが張られている。

たき火の近くで薪を割る者、談笑する者、そして一際大きなキャンプの中に腰かけて客寄せをする者。 皆が毛むくじゃらで、ピンと立った三角の耳に、らんらんとした目、アンテナのように鼻の横に伸びるヒゲを持っている。間違いない。猫の見た目をした獣人族、カジートだ。

キャンプをのぞきこんだシフは、そこで黒毛のカジート・アハカリと目が合い、挨拶した。アハカリはシフの素朴な雰囲気から『よそ者』であることを見抜き、話しかけてきた。

「口も聞いてくれないのよ、ここの人たちは」

「どうして?」シフが聞き返す。

「カジートがスクゥーマの商人だってみんな思いこんでる。でもスカイリムに来てからスクゥーマなんて一口も吸ってないのよ」

「スカイリムに来てから?」

シフはカジートの暮らしを何も知らないようだった。そこでアハカリはカジートの故郷・暖かなエルスウェーア地方での暮らしを話した。彼らにとってスクゥーマは酒のような嗜好品で、危険なものではない。けれどもノルドたち大半の種族には強い副作用と中毒性があり、秩序を乱してしまう。それゆえ、スクゥーマを扱っていると勘違いされたアハカリたちカジートは街に入ることさえできず、こうしてキャラバンとして行商の旅を続けるか、物好きに身体を売るか、山賊に身をやつすしかないのだ。

「それじゃあスクゥーマは売ってないんだな?」「ええ。売ってるのはムーンシュガーよ」

ムーンシュガー。

わずかに間をおいてからシフは言った。「今日、クラッグスレイン洞窟でスクゥーマを密売しているやつらを倒してきた」

「…」アハカリのヒゲがピクッと動いたように見えた。

風がやんだように静まりかえる。奥で話していたカジートたちが会話を止め、シフたちに目を向けた。

「そう。見かけによらず強いのね、あなた」「どうしてやつらが強いってわかるんだ?」

「…」すん、とアハカリが鼻を鳴らして言う。「こんな土地でスクゥーマを売るような人たちだもの、用心棒を雇っていてもおかしくないでしょう?」

それもそうだ、とシフがわずかに納得する。

「それで、買わないならよそへ行ってくれないかしら。他のお客の迷惑よ」アハカリはそう言って話を切り上げようとする。シフはあたりを見回した。街道を通る者はなく、自分たち以外の客など影も形もない。いや、もしかすると日が沈めばやってくるのかもしれない。闇にまぎれて取り引きをしようとする者が。

アハカリに視線を戻した。他のカジートたちはすでに元の様子に戻り、スカイリムの寒さや故郷、内戦について取りとめもない話をしている。

「アハカリは私みたいな者とも取り引きをしてくれるのか?」「ええ、お金があれば誰とでも」「売りたいものがたくさんある。どんなものを引き取ってくれる?」「カジートは何でも売るし、何でも買うわ」

ガシャリ、とシフは背負っていた鋼鉄の剣を下ろした。洞窟からリフテンへ引き返す途中、敵が身につけていた重い鎧を鋼鉄の剣に作り変えたものだ。

「これを売りたいの?」アハカリの問いにシフはうなずく。アハカリは一本一本その品質を確かめると、身体を背中のほうへ伸ばし、袋から金貨を取り出して見せた。

「10 本で 180 セプティムよ」「200 じゃないのか?」「文句があるならよそへ行って」

未だ話術の低いシフに交渉するすべはない。ただシフはそこで引き下がらなかった。金貨を受け取るとおもむろに立ち上がり、ケープの内側で両手をごそごそと動かす。何事か、と他のカジートたちが武器に手を添える。二人のやりとりを傍観していたタニシも、もしもに備えて身構える。

ゴトン。硬い音とともに鋼の胸当てがシフから落ちた。次いで両手の籠手を外す。

「ちょっとあなた。こんなところで何してるの」

呆然とするアハカリの前で、シフは身につけていた鎧を次々と脱ぐと、アハカリの前に並べて言う。「これでいくらだ?」

アハカリはとんでもない客に会ってしまったと心の内で嘆いた。だが何でも買うと言った手前、ここで店じまいをするわけにもいかない。シフの身体から目をそらしながら、胸当てや籠手、膝当てやブーツ、ベルトを夕陽に照らし、全て本物の鋼であることを確かめてから言った。

「全部で 100 セプティムよ」

それを聞いたシフは、ケープと服までするりと脱いで鎧の隣に並べた。

「やめてよ、いったい何のつもり…」あまりの奇行にアハカリは怒鳴りそうになった。けれどもすぐにここがリフテンの街のそばであることを思い出し、声を引っ込める。こんなやつを相手にトラブルを起こして、衛兵に追いたてられてはたまらない。

困惑するカジートのことなどお構いなしに、シフは腰を落としたまま、「いくらだ?」と相手の口から金額が出るのを待っている。

「あのね、カジートは何でも買うけどもう手持ちがないの。それは買えないわ。だから、お願いだから、服を着て」

「…」

シフはアハカリの瞳をなおも無言で見つめていたが、ふっと視線をそらすと「ごめんなさい」と一言だけ口にして袖に手を通した。

「スクゥーマを売る金が必要なら、そのぶん私がちゃんとした商品を作ってくるから、もうそんなことに手を染めるのはやめてほしい」

金貨を袋にしまいながらシフが言う。ほっと胸をなでおろしたアハカリは、耳に残ったシフの言葉を思い出すと、ほう、と感心した表情に変わる。

「旅人さん、カジートキャラバン『では』スクゥーマなんて割に合わないものは売ってないわ。本当よ。でもカジートがお金に困っているのも本当。だから旅人さんがカジートとたくさん商売して、暮らしを楽にさせてくれたら、スクゥーマが出回ることもなくなるんじゃないかしら」

では、という言葉をアハカリが強く言ったように聞こえた。ケープを巻き直したシフはアハカリの目を見て言う。「じゃあこんどから、買いきれないくらいの武器やポーションを作って持ってくる」

アハカリが目を細めてうなずく。「ええ、そのときはまた取り引きしましょう、旅人さん」

「私はシフ。銀狼のシフ」

「そう。シフ、快適な旅になりますように」



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