01 - Docusaurus が攻めてきた!
私は裁判にかけられていた。私の健康と ThinkPad に甚大な被害をもたらした大怪獣 Docusaurus,それを招いた責任を私に押しつけるために。もちろん私に弁護人などいない。これは私を処刑するために行われているのだから。
無念だった。
裁判長 EeePC が高らかに言う。「React.js 製のドキュメントツールがあまた存在するなか,わざわざ Docusaurus を選んだのはなぜか。君の健康および ThinkPad を意図的に損うためではないのか」
React なんて知らない。そう言おうとした。
「ゴホッゴホッ…!」おかしい。ノドが激しく熱い。声が出ない。音の代わりに出るのは,身体を守ろうとして出てくる唾液だけ。
…まさか。私は ThinkPad をにらみつけた。昨日,忘れずに飲むよう言ってきた風邪薬。あれが私から声を奪ったのか。なんて狡猾な。全てはこのとき,私をつぶすための計画だったのか。
私の反論がないのをいいことに,なおも EeePC は私を責める。「React はおろか,Web 開発の基本さえ知らない被告が Docusaurus に手を出せば,悲惨な事態になることは容易に予想できたはずだ。それにもかかわらず,被告の無計画なふるまいが未曾有の災害をひき起こしてしまった。その責任を負うのは当然といえよう」
違う。 GitBook 以外のソフトウェアを試してみようと思って,たまたま目についたのが Docusaurus だっただけだ。だって,マスコットキャラクターの Slash がかわいかったから…。
「証人。言いたいことはありますか」EeePC の問いかけに ThinkPad がわざとらしい泣き真似をみせる。「くすんくすん」
「かわいそうに。大変な目にあったのでしょうね」「はい。この人は,ずっと怖い顔で私をにらみつけて…何日も私を痛めつけました。しくしく」
ひどい言われようだ。のどを抑えたまま,涙が浮かんできた。たしかに Docusaurus は GitBook や VuePress よりは難しそうだと思った。でも,私は進歩したかった。いきなり .js ファイルをいじる必要があるなんて思わなかっただけで。
「被告,黙っているということは罪を認めるのだな?」
くやしい。あまりにくやしい。そして,悲しい。
私は涙をこらえ,キッと EeePC をにらんだまま無言で指さした。私の潔白を知っていながら陥れようとする,邪悪な EeePC を。
「ふっ」私の無力な抵抗に EeePC はほくそえむ。「被告の行為は極めて悪質であり,反省の余地もみられない。これは厳罰もやむをえまい」
「待ってください」
声が響いた。ThinkPad だ。まさか。私の心に希望の灯がともる。
「厳罰では軽すぎます」
な,何?
「ほう。厳罰でさえ軽いと」「はい。被告は Docusaurus 以前から私に嫌がらせをしてきました。 furmark を起動した証拠もあります」
「furmark!?」EeePC が目まいに襲われたような声を出す。furmark。別名 GPU バーナー。EeePC 程度のへっぽこな性能では起動さえできない高負荷ツールだ。たしかに私は ThinkPad の性能を試すために起動した。だがそのことを根に持っていたなんて。
「そんな虐待を」「はい。この人はとんでもない悪人です。こんな仕打ち,私で終わりにしてください。どうか,お願いします。しくしく」
「わかりました」EeePC が木槌を叩く音を発した。
「主文。被告を 『 Docusaurus を用いたドキュメント作成法』の刑に処す」
そんな。あんまりだ。反抗する気力さえ奪われた私はヘナヘナとくずれ落ち,EeePC の命令するまま布団へと連行され,そして安らかな眠りについた。