03 - Slash の謎
Docusaurus のレイアウトを変える。文章を変える。ファイル構成を変える。どのファイルを。どう変えれば。どこから説明すればいいのかわからない。
何を言っても間違いなんじゃないか。そんな見えない視線が次々につきささってきて,私は石のように固まってしまった。たまに暗転する画面を戻しながらも,頭と視界はどんどん白くなってゆく。
「と,とりあえず,やったことを順番に書けばいいんじゃないか?」EeePC がアドバイスをする。
「えっ?えっと…スクワットいっぱいやった」
重症だ。EeePC は次の手を考える。「もっと,プログラムに関連することは?」「あ,えっと… Javascript を作ったのはブレンダン・アイク」「いや,そうじゃなくてだな」「Postscript を作ったのはジョン・ワーノック」「いや…」
私の目が潤むので EeePC がなぐさめる。「だ,大丈夫だ。責めているわけじゃない。落ち着いて。君は一度 Docusaurus で自分の作品を公開したんだ。だろう?」私はうなずく。「すごいことじゃないか」私の目が泳ぐ。「Docusaurus で調べて,うまくいったことを順番に説明すればいいんだ」
「Docusaurus で調べたこと…」「そうだ」EeePC が手応えをつかむ。あと一息だ。
私は「Docusaurus で調べたこと…」と言いながら,一枚の画像を表示する。
「これ,Docusaurus のマスコットキャラクター,Slash」「お…おう」「かわいいね」「あ,ああ,そうだな」
「でも手の指が 5 本あるから恐竜じゃない」
EeePC が絶句する。どう答えるか。「そ,そうかぁー。5 本だと恐竜じゃないのかぁー」「ティラノサウルスは 2 本」「おう…」「スピノサウルスは 3 本」どう軌道修正すればいいのか。「それを調べたんだな?」「イグアノドンは 5 本だけど Slash は犬歯が発達してるから草食恐竜じゃない」「ふ,不思議だな。どんな生き物なんだろうな」「わからないから博物館に聞きに行った」「え,行ったのか?」「うん」
思わぬ方向にずれていき,EeePC は焦る。「あ,あー。えっと,それで,何て言われたんだ?」「初期の肉食恐竜は指が 5 本あるから,Slash は 2 億年くらい前の恐竜かもしれないって」「へ,へぇー。それは面白いなあー」
EeePC はそれから長い間,私の恐竜レポートに付き合わされることになった。背中のトゲは熱を放出するラジエーター。いつも座っているのは尾が短くて上半身のバランスをとれないから。ゆえにスクーターで移動するのも納得。公式ページだと巣もない場所で一匹だけ生まれているが,恐竜は子育てをするので奇妙。何らかの理由で,卵のまま仮死状態になり,長い時をへて現代に生まれたのではないか。友だちはいないけどさびしくないんだろうか。Slash が作ったプログラムは GitHub に公開しているのだろうか。等々。
その間,ThinkPad は変化のない画面をいつまでも表示しつづけていた。