015 Fork
『では fork
しに行ってくる。少し待っていろ』
クロメがそう言うと,突然バツの黒い目が閉じた。Git の幻影も消える。
「あ,あれ? クロメ?」
視界が狭まり,バツがあわてながらあたりを見回す。
(GitHub, GitHub_Fork_Button, SIL Open Font License)
$ git clone 😂😠😷😢😍😠.😠😠@😬😷😠👿😆.😢😮😷:qr0me/asatsuyu
$ cd asatsuyu
ぞくっ。
全身のうずきとともに,再び目が開いた。Git の幻影もよみがえる。
「く,クロメ?」
『何だ』
すぐに返事があり,バツはほっとする。
「もう,心配してたんだよ。今まで何してたの?」
『 fork
しに行ってくると言っただろう。聞いていなかったのか?』
「だっていきなりいなくなるんだもん。で, fork
って複製のことだよね?」
『ああ』
「その世界はいつできあがるの?」
『もうできたぞ』
「へ?」
バツがぽかんとした顔をしている。
「だ,だって,世界を作るんでしょ?『ああ』
「そんな簡単にできるもんなの?」『一瞬だ』
「一瞬…」
バツのいる世界は,地獄においては一瞬で複製できるほどのものでしかないのか。まるで自分がちっぽけになったようで,寂しくなる。
『まあ,俺ができるのはこれくらいだ。俺だけじゃ過去を変えることはできんからな』
「そんなすごいことができるんならさ,少しは私の呪文を肩代わりしてくれてもいいと思うんだけど」
『俺にそんな力はないと言っているだろう。もしそうなら君に頼ったりなどしない』
「そりゃあ,そうだけどさ…」
詠唱のたびに自分が傷つくことを,少しは労 (ねぎら) ってほしい。そう思った。
「あ,そうだ。他に複製した人っていた?」
聞かれたクロメは記憶をたどる。
『そうだな。俺で 7 人目だった』「七人…」『まあ,全員が Git を扱えるとはかぎらんが』
「誰が複製したかはわかる?」『名前を知ってどうする。お前に地獄の知り合いはいるのか?』「クロメっていう知り合いがいるよ」『奇遇だな。俺も同じやつを知っているよ。今はたしか人間を手下にしていたと思う』「じゃあ人違いだね。私が知っているのは人の身体に居候してるやつだから」
『…』「…」『知りたいか?』「うん」バツが何度もうなずく。
少し上機嫌になったクロメ。バツの黒い目が瞬きすると,Git とは違う文字が幻影として現れた。
qrntp001 sib los cre sha-zl sin qr0me
『左から順番に fork
したやつらの名前がある』「じゃあ一番右が君なんだ」『そうだ』
「なんかわかることある?」読めないバツがたずねる。
『 los
と cre
というやつの名前がある』
「それって…」ぎりぎりと拳を握るバツ。
『この世界を変えたやつらだ』「…許せない」『焦るな。拳は使えるときまでしまっておけ』
「…ムフーッ」怒りの熱を鼻から吹き出すように,バツは大きく深呼吸をした。
「他にわかることは?」
『一人目は天界の有名な神族だ。あらゆる世界を監視する趣味がある』
「え,じゃあ天界も私たちのことは知ってるの?」『さあ,どうだろうな』
「もし私たちが苦しんでるのわかってて無視してきたんなら,こいつもぶん殴ってやる」
そう言って拳を突き出した。
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