009: magit-log

鋭く切れた指先。ちりちりとした痛みに,もう失敗はできないとバツは感じている。

Esc のあとは何て言えばいい?」

『さっきと同じ l b だ。間違えるなよ』

l b …」


「ふうっ」

バツは大きく息をついて肩幅に足を広げて立ち,剣を構える。

そして唇をきつく噛むと,指をすべらせた。


ずるっ。


「 ! ! 」全身に電気がはしるような震えがおきる。

「ひっ…ひ…」

のどがひくつく。それでもなんとか声をしぼりだす。

Esc

光が一瞬点滅したように感じると,バツの前に見覚えのある文字がよみがえってくる。

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「…」

バツの動きが止まった。つづけて詠唱することもなく,歯がかちかちと鳴っている。

『なんだ?はやく唱えろ』

「…うっ…く…」

痛み。緊張。恐怖。押しよせる負荷に心が悲鳴をあげているのだ。

剣がカタカタと震え,指をはずしそうになる。

『しっかりしろ。 l b だ』

クロメの励ましにバツがキッと歯をくいしばる。

「うーっ ! 」

l b

詠唱は成功した。それまでにかかった時間がうそのように,瞬時に文字がずらりと並ぶ。

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e869d21 | | *  DID dtower

...

『…ん?』

クロメが何かに気づき,ぶつぶつとつぶやく。だが消耗しきったバツには聞こえない。剣を杖のようにしてよりかかり,ぜえぜえと息をあらげる。何度も切った指はぴくぴくと痙攣 (けいれん) し,これ以上の痛みを本能が拒絶している。

「ふぅ…ふぅ…」息をととのえたバツがようやく口を開く。「ねえ,ここからどうやれば過去に戻れる?」

『戻りたい場所に分岐点を作り,そこへバツを移動させる。そのためには分岐点をどこにするか指定することが必要だ』

「え,えっと…何言ってるか全然わからないんだが」

『どこに戻りたいかを言え』「なんだ。それなら最初からそう言ってよ」『そう言っただろう』「私は地獄の言葉はわからない」『人間の言葉しか言っていないが。おま…バツは人間の言葉もわからないのか?』「いま,お前って言おうとしたでしょ。失礼な」『お前が馬鹿だからだ』「なっ…ばかって言ったほうがばかなんだよ ! ばか ! 」『そんな元気があればいくらでも呪文を詠唱できるな』「ぐっ…ひ,卑怯な」

『さあ,早く,どこに戻りたいのか言え』

「えっと,地獄の門が開く前」

クロメの問いに,バツは即答した。

『…そんな前か』「そう。そこで門が開かないようにする」


少し間があった。

聞いていなかったのかバツが不審がると,クロメが問い直す。

『…方法はあるのか?』

「決まってるじゃん。調べるんだよ」

『…まったく』バツの能天気な答えにあきれる。

『期待した俺が馬鹿だった』「ほら見たことか。ばかって言ったほうがばかなんだよ」『そういう意味じゃない』

頭に疑問符をうかべるバツに,クロメが残酷な事実を伝える。

『悪いが,地獄の門が開く前には戻れない。魔族の襲来を防ぐことは無理なんだ』



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