025 Merge Pull Request
「らめれす…もう…飲めないれす…」
「ならぬ。余の酒を断れば皆が許さぬぞ」
バツは幾度目かの霊酒をあおり,顔をそらして大きくげっぷをした。
3864f90 * primus origin/primus Merge pull request #17 from kaburaho/bottle
|\
| |
0af510e | * Add liquor
8533034 * | Merge pull request #16 from kaburaho/bottle
|\ \
| |/
4aeb3a1 | * Add liquor
989c2f0 * | Merge pull request #15 from kaburaho/bottle
...
「ほれ,飲め」
杯が空くか早いか,鏑穂 (かぶらほ) が次なる一杯を注ぎ,バツにうながす。真っ赤な顔で飲み干したバツは,もはや身体を支えきれず壁によりかかっている。
小五院 (しょうごいん) の外にある小屋には仕切りがたてられ,かぐわしい香が焚きしめられている。その中で鏑穂はバツを直々にもてなしていた。注がれる酒も最高級のものであり,バツに断れるはずもなかった。
いくら小五院の防衛で功があったとはいえ,このような歓待を受けることなどそうはない。鏑穂を心配してやってきてしまった彌分 (やぶ) は,事情を察しつつも,うらやましさに袖を食いしばっていた。
「ほれ,酒はまだまだあるぞ」杯をバツの口につける鏑穂。だがバツは意識を失ったのか,目を閉じたまま,大きく息をしている。
「ふむ…そろそろか」
念のためバツの手を後ろに回し,霊輪を取りつける。そうして酒でふくれた腹部に手の平を当てると,霊力を込めながらゆっくりと呪印をさすり始めた。
実のところ,バツに供された霊酒は人間にとって水と変わらない。だが魔族を強力に酔わせ,抑制のタガを外す効果をもつ。そして充満した香は,魔族を麻痺させる。鏑穂はバツをもてなすという名分で,その内に巣喰う闇の者を尋問するつもりだったのだ。
「おい,余の声が聞こえるか?」鏑穂はそう言ってバツの胸に耳を当てる。すると,それまでトクトクと脈打っていた音に,何かずるずるとひきずるような音がまざってきた。
「余は守護七院・小五院の張子 (はりこ),鏑穂だ。お前は誰だ?」
「Git を知る者,クロメと言っておこう」バツの口から,低く,くぐもった声が聞こえてくる。
「お前のねらいは何だ?」
「ふっ…」クロメが笑う。「人間とはこうも臆病なものなのか?俺がそんなに恐ろしいか。バツはもっと素直に俺を受け入れたぞ」
「バツに何をした」「取り引きをしただけだ」「取り引き?」「俺の力を貸すかわりに,身体を貸せ,とな」
「バツの身体に入った理由は何だ」
「おい,俺はそんなに凶暴じゃないぜ?こんな大がかりにしなくとも,知りたいことがあるならバツの口からいくらでも話してやるよ」
鏑穂が呪印にのせた手に霊力をこめる。
「うっ…」バツがひくひくとけいれんする。「おい,俺が死んだらこいつも死ぬぞ」
「余に脅しはきかん」「やめろって。見た目によらず乱暴なやつだな」
「乱暴だと?きさまら魔族がどれだけ我らの命を奪ってきたのかわかっているのか」
「まったく」バツの口からひゅっと息がもれる。まるで溜め息をするように。
「自分たちのおかれた状況がわかっていないようだな。バツが何を見てきたのか教えてやろうか?」
鏑穂に命を握られながら一歩も退かないクロメ。そうして人間がかつてたどった未来を語り始めた。
(c) 2018 jamcha (jamcha.aa@gmail.com).