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「あれ?」

目覚めたバツがクロメの言われるままに magit-status を呼びだすと,何かに気づく。

「食事はここに置いていくからな。足りなければまた呼ぶといい」

彌分 (やぶ) が桶を置いて言う。

「ありがとうございます」ふっくらとした米に目を輝かせるバツ。

本当に食べるのが好きなんだな。笑みを隠し,彌分は戦の支度に戻っていった。


むしゃむしゃと手にした飯をほおばりながら,バツは呼びだした文字を不思議な様子でながめている。

『どうした?』

「なんで読めるの?」『読めるって,君がか?』「うん」

そうして Head primus Merge と読みあげていく。

『ほう』クロメが心なしか喜ぶ。『あの鬼が俺たちにした仕打ちも無駄ではなかったということか』

「どういうこと?」

『霊酒や香,霊力を受けて俺たちの血がまざりあったってことだ』

「まざりあうって…」バツの手から米のかけらが落ちる。

『ひとつになったってことだ。まだ完全ではないがな』


「うえー」

あからさまに嫌そうな表情をするバツ。「君なんかと一つになりたくないよー」

『なっ』クロメが怒って言う。『俺が君の身体を守るためにどれほど苦労してきたかわかっているのか?』「だって居候が家主のために努力するのは当然でしょ?」『き,君は俺の苦労を当然だと思っているのか ! 』

「そりゃあ,ありがたいと思ってますよ」照れた顔を隠すように一口ほおばるバツ。「君がいなかったら,私,生きてないと思うし…」

素直に感謝され,拍子ぬけしたクロメは『う,うむ…』と黙る。

「それで,どうして私に呪文を唱えさせたの?」

『君が stash を勘違いしていたからな』「?」『さっき,鬼に酒を飲まされていた場所に戻っただろう?』「うん」『それは君が思っていた場所とは違っていたはずだ。なぜかわかるか?』

バツはあのとき,地獄の門が開かれた瞬間に戻ろうとしていた。以前,クロメが使ったときはそうなったのに,今回は違った場所に飛んでしまった。

stash を使いこなすには,Git が記録する仕組みを理解しなければならない』


バツが真顔で食べつづけている。全身で理解を拒んでいるように思えた。

『お,おい,説明するぞ。いいか?』

「…」ふっ,とバツは急に遠い目をした。「君の知識もひとつになっていれば良かったのにね…」

『それだと君の身体は完全に俺のものになるな』

にやり,とバツが不敵に笑う。「それはどうかな。君の知識も私が食らいつくしてやろう」


本殿の端に腰をおろし,ひたすら桶の飯を口に入れながら独り言をつぶやくバツ。いくら鈴の音が警戒心を弱めるとはいえ,その様子は人々のあいだで不気味にうつった。



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