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詠唱を終えたバツは鏑穂 (かぶらほ) の顔を見る。

「お張子 (はりこ) 様の手紙,確かに承りました」

鏑穂はうなずいて言った。「もし危なくなったら,いつでも戻ってくるが良い。死ぬでないぞ。よいな」

バツが「はい」と返事してうなずく。

彌分 (やぶ),荒楽 (あらら),そして遠くから焔丸 (ほむらまる) が,大零院 (だいれいいん) へ向け出発するバツを見守っている。

「みんな…ありがとう。行ってきます」

バツはぺこりとお辞儀をすると,鈴の音を響かせながら小五院を後にした。


大零院への道のりを進んでいると,空が曇ってきた。バツが早足になる。

『何だ。何を急に急いでいる』「雨が来るからだよ。それまでできるだけ進んでおかないと」『アメ?』

魔族は雨を知らない。知っているのは全てを枯らす赤い雨。

バツが絶望の未来を思い出して無口になる。

『おい,』心配になったクロメが話しかけようとしたそのときだった。


ドサッ。

何かがきらめたかと思うと,激しい衝撃で転倒する。

「なぜ貴様がその鈴を持っている」耳元で誰かが低い声でささやき,首筋にひんやりとした感触があった。

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「…」

バツは道の真ん中に立っていた。心臓が高鳴っている。クロメが代わりに詠唱したのだ。だがクロメへの負担は大きく,しばらく眠りにつかなければならない。

『馬鹿…不用心…だぞ…』

「…クロメ,何か見えた?」ひきつった顔でバツが聞く。

『わか…らん…だが注意…しろ…奴…強…』

黒い目が閉じた。バツの身体が人の形を取り戻す。しばらく Git が使えない。

どうしよう。さっきのは敵だろうか。バツは考えた。道を変える?いや,そうすると何倍もかかってしまう。

– なぜ貴様がその鈴を持っている –

確かに人の言葉を話した。クロメのように頭のなかに話しかけてきたようでもなかった。

「…」疑念は深まる。

バツは魔族の容姿だった。けれども相手は即座に自分を殺そうとはしなかった。それはこの鈴について何か知っているからではないか。

ひとつの確信めいたものを抱き,バツは再び大零院への道を進んだ。


空気が湿ってくる。そろそろだ。

「止まれ」

背後から声がかけられた。瞬間,腕を背中にひねりあげられ,木に押しつけられる。

「ぐぅっ…」息苦しさで声が出ない。殺されるかもしれない,そんな恐怖を感じた。

「その鈴,どうした。どこで手に入れた」

「しょ…小五院…で…」「小五院?小五院はどうした。無事か」「は,はい…お張子 (はりこ) 様の…手紙も…」

「お張子様」その言葉に,力が緩む。ようやく解放されたバツは,激しく咳込んだ。

闇にまぎれる霧のような装束。森に溶けこむほど薄い。

「敵ではないようだな」刀をしまって言う。

「は,はい。私,大零院の使いで,バツと言います。小五院から戻る途中で」バツは見慣れぬ風体の相手に怯えるように自己紹介をする。

「大零院の使いか。残念だが戻ることはできん」

「え?」「大零院は落ちた」



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