033 commit

『この世界の全ての状態はひとつの数値で表される。 magit-log の先頭に表示されている値がそれで…』

食事を終えたバツが大きくあくびをしている。

『おい,大事な話なんだぞ。しっかり聞け』「ええー。だってつまんないんだもん。いつ終わるの?終わったら教えて」

『俺の話を聞かなかったら,終わるのはこの世界のほうになるぞ』

ぞくり,とバツの背中に冷たいものが流れる。

『君にもわかるように教えるつもりだ。ちゃんと聞いてくれ』「…わかった」


『そこの石を拾ってみろ』

バツが言われたとおりに石を手に持つ。『そのまま g と唱えろ。これは magit-status を再度呼び出す呪文だ』

「…」石を手にしたままバツがたずねる。「これも指切らなきゃだめなの?」『今はな。緊急のときは俺が代わってやる』「今は…」『緊急時ではないと断言できるな』

はぁ。とバツは観念し,剣を構える。

『一つ言い忘れていたが』「なに?」『そんな大層な構えをとらなくても,剣に君の血を与えればどんな姿勢でも詠唱ができる』


「はぁ !?」


思わず出てしまった大きな声に,近くで作業をしていた人々が何事かと振り向く。バツは頭をぺこぺこと下げ,うらめしそうにクロメに言う。

「そんなに私をからかって,楽しい?」『そうでもしないと君はいつまでも自分を切ろうとしないだろう?』

「…」

図星のバツは答えず,横に石を置いて座ったまま指を切った。

g

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Unstaged changes (1)
modified gardenl5/objects.map

「あれ,何か増えてる」

『それは君がこの石を操作したからだ。この世界では君が操作したものを Git が記録する』

「触ったものだけ?」『今はな。それ以外は .gitignore で除外してある』「ふーん」

「指で Unstaged changes のところをさして s と唱えてみろ。血はなくてもいい」

s

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Staged changes (1)
modified gardenl5/objects.map

「あ,変わった」

バツが呪文を唱えると, Unstaged changesStaged changes に変わる。

『それで記録の準備ができた。 c c を唱えろ』

「…」『早く指を切れ』「やっぱり」

ぷつっ。

c c

|

# Please enter the commit message for your changes. Lines starting
# with '#' will be ignored, and an empty message aborts the commit.
#
# ブランチ primus
# コミット予定の変更点:
# modified gardenl5/objects.map
#

「な,なんかどんどん文字が変わってよくわからない…」バツが不安になる。

『そのうち慣れる。ここで君が変えた物の題名をつけるんだ』

「題名?」『そうだ。君は magit-status を呼びだしてから,何を変えた?』

「ごはん食べた」

『…』

これで本当にバツは理解してくれるのだろうか。クロメはこいつを満腹にさせてから説明をはじめればよかった,と後悔した。いや,それでは寝てしまうかもしれない。

『…ああ。じゃあ,それを題名にしよう…』

Ate delicious lunch

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# with '#' will be ignored, and an empty message aborts the commit.
#
# ブランチ primus
# コミット予定の変更点:
# modified gardenl5/objects.map
#

「できたよ」

『…最後に C-c C-c だ。それで commit が済む』「 commit ?」『 Git に記録を残す作業のことだ。まあいずれ覚えるだろう』

「ふーん…」『…』「…」『おい,まだ切るのが嫌なのか?』「あたりまえじゃん ! 」

たかが石ひとつの場所を変えるだけでどれだけ自分を傷つけなければならないのか。しぶしぶバツは剣に指を当てる。

ぷつっ。

C-c C-c

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