035

どれほど save stash を唱えたことだろう。何度戦っても,小五院 (しょうごいん) の守りが破られてしまう。

何度配置を変えても,何度指示を変えても。

何度変えても。

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小五院の外れ。バツは荒く息をついている。

失敗を繰り返しながら歴史を変え,成功したものを commit する。そう意気込んではじめた戦いだった。だが疲弊した小五院の戦力では,先の戦いを超える数の魔族に対処しきれない。助けもなく,じりじりと追いつめられていく。

串刺しにされる彌分 (やぶ)。五体を裂かれる荒楽 (あらら)。生きながら焼かれる焔丸 (ほむらまる)。それらを目の当たりにするたび,バツの心は深く傷ついていった。


血の海のなかでバツは詠唱した。もはや誰の血かもわからぬものを剣が吸う。

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小五院の外れ。転がった石。響く敵襲の鐘。バツは耳をふさいで震えた。

身体は戦う前に戻る。身体は。

『一旦別の世界に移動して,休んだほうがいいんじゃないか』

クロメが提案する。だがバツはそれを無視して,目を大きく開いたまま,これまでの戦いを思い出している。いや,思い出させられている。

あと少し。あと少しのときもあった。小五院守護と山の民は全滅した。だが残った魔族の数もわずかだった。もし本殿に攻めこまれ,火を放たれる前に自分が倒せていたら。

あのとき,もし自分が小五院守護一人分の力でもあれば,守りきれたかもしれない。でもそれで,守りきれたとしてどうなる?鏑穂 (かぶらほ) と自分だけで,どうやって小五院を守っていけばいいのか?

バツは頭をかきむしった。無策と無力と無知な自分を責めるように。

「…」

その目に,散々バツの血を吸ってきた剣がうつった。


『おい,張子 (はりこ) ! 聞こえるか ! 』

急にクロメが叫んだ。

『バツを助けてくれ ! お願いだ !』

「…」バツが何か小さくつぶやく。だがクロメは叫びつづける。

『バツはもうずっと戦いつづけている ! 何度も過去に戻って,お前たちを救おうとしている ! 』

「…て…」

『もしお前たちに人の心があるなら,バツを助けてくれ ! バツを思ってくれ ! 』


「もうやめて ! 」


バツが大きく叫んだ。その声に,ふっと周りの空気が鎮まる。

「もう…やめて…」

大声を出すのも,攻めてくるのも,みんなの命を奪うのも。

もう,やめて。


後ろの床板がキイと静かに鳴いた。バツが顔を上げて振り向く。


「まったく,荒楽といい,バツといい,余の周りには心の修行が足らんものだらけじゃ」



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