007

「タニシ ! 生きてたのか ! 」

食糧庫から少し進んだところで、シフたちは三人組に遭遇した。鎧から察するに、生き残った反乱軍のようだ。はじめはタニシに笑顔を見せていた彼らだったが、帝国軍の鎧を着たシフに気づき、態度が急変する。

タニシは誤解を解こうとあわてる。「待て。こいつは敵じゃない。鎧も敵から奪ったものだ」だが三人は武器を抜き、シフへ向けたまま警戒している。

タニシは続ける。「考えてもみろ。こんな鎧のサイズすら合ってないやつが帝国軍なわけあるか?顔だってこんなにぽよぽよで」言いながらシフの頬をつまむ。シフはタニシを突き飛ばしたい衝動にかられたが、ここで彼らを敵に回すのは得策でないので、努めて平静を装った。そのまま目だけをわずかに動かし周囲の状況を確認する。

三人の足元に転がる帝国軍兵士の亡骸。壁際には鍵のついた檻がいくつか並んでいる。檻の中の遺体にはひどく損傷したものもあり、この部屋で何が行われていたか容易に想像できる。シフは胸が痛んだ。

そのうち一人がシフの首輪を見て、何か思い出したように言った。「お前、あのときの奴隷か?」もう一人が「何だそれ」と聞く。

「俺たちが帝国軍に見つかる前に、奴隷商人の馬車が通りかかっただろ。あのとき、一人の奴隷が暴れだしたんだ。おかげで俺たちは帝国軍に気づいて、包囲される前に何人か脱出させることができた。だからこいつは仲間の命の恩人なんだよ」

「そうなのか?」とタニシがたずねる。目が『うなずけ』と言っている。シフが目をそらし記憶をたどっている最中も、向かいあう三人は勝手に盛りあがる。「じゃあ身代わりに殺されそうになっていた奴隷ってのはこいつか?」「たぶんな。いや、きっとそうだ」

勝手に開かれた裁判は、シフの関知しないところでこれまた勝手に閉廷した。一人が武器をしまって握手を求めてくる。「勘違いしてすまなかったな」

シフは手を握り返して言った。「銀狼のシフだ」

別の一人がタニシを見て言う。「タニシ。この先は砦の出口につながっている。お前も脱出に協力してくれるな?」

「ああ、もちろんだ。だがその前に急いでやっておきたいことがある」タニシは腰の袋からロックピックを十本取り出すと、シフに渡して言った。「牢の鍵を開けて、仲間の形見を回収してほしい。目ぼしいものや金貨があれば、それも」つづいて反乱軍の兵士に向かって言った。「先に行ってくれ。俺たちは敵が来ないか見張っておく」

タニシに促され、三人の兵士が去る。するとシフに向き直って言った。「檻を全部開けるんだ。何も入っていなくても、全部な」

タニシの豹変した態度にシフが訝しむ。「どうして」「開錠のスキルを上げるためだ」「開錠を上げて何になる?」「財宝にはたいてい頑丈な鍵がかかっている。それを開けて強い装備を手に入れるには開錠の Perk が必要なんだ」

いきなりロックピックを渡されたシフはとまどっている。するとタニシが『 Requiem 』の開錠の星座を見せて言った。一直線に並んだ星が鍵の形を描いている。「ほら、最初の Perk を取れ」

シフは躊躇した。「ちょっと待ってくれ。ここで使ったら星はあとひとつしか使えなくなっちゃうだろ」

「開錠の最初の Perk がなきゃ鍵ひとつ開けられないぞ」タニシは両手でページを開き、これみよがしに迫る。

「…」シフは顔をそらして、ロックピックを手に檻の鍵に向かった。「おい、開けられないって」

鍵を前にしたシフには直感があった。この錠前はそれほど複雑な構造ではない。だから自分でも時間をかければ開けられるかもしれないと。

あいまいな記憶を頼りに、平たい金具を鍵穴に差し入れ、続いてロックピックを差し込んでゆっくりと回す。

ポキッ。ロックピックは容易に折れた。天を仰ぐタニシ。だがシフは気にせず次のロックピックを鍵穴に入れる。

すると。

カチャリ。

まさか。タニシの顔が驚きに満ちる。対してシフは勝ち誇ったような顔でタニシを見上げて言った。「嘘ついたな」

ばかな。そんなはずは。「嘘じゃない。俺のときは…」「言い訳する前に言うべきことがあるんじゃないか?」「言うべきこと?」「私をさんざん貶してきたことについてだ。さっきだって」「わ、悪かった。謝る。すまん」

おかしい、と頭をこするタニシ。それからもシフは、多少のロックピックを犠牲にしながらも檻の錠前を次々と開けていった。そうして鍵開けに慣れていくのを感じ、スキルが上がるというのはこういうことか、と理解したのだった。



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