008

簡素な錠前であればシフでも開けられた。だが少し複雑な錠前、盗賊がいうところの『見習い』レベルの錠前にシフは苦戦した。わずかでも違和感があるとロックピックが容易に折れてしまう。

「…タニシ」シフが独り言のように言う。「何だ」「開錠の Perk を取る」

タニシが大きく息をついた。「だから最初から取っておけと」「早く本を出せ。勘が鈍る」シフが錠前から少しも目をそらさずに急かした。やれやれ、とタニシがページを開くと、シフは瞬時に星を光らせ、作業に戻る。

凝り性か。だが開錠の技術は盗賊に教わるかひたすら錠前を上げて鍛えるしかない。シフの性格は好都合だとタニシは思った。

カチャリ、と最後の錠前を開け、シフが「ふう」と息をする。檻に入っていた魔術師のローブや金貨を回収し、先へ進んだ三人組を追う。

なおも石造りの地下が続く。両脇に牢が並ぶ場所でタニシが止まった。雰囲気を察し、さすがにシフもうんざりした顔になる。「ここも開けるのか?」

もちろん、とタニシは言おうとしたが、ここでシフがやる気を失ってはまずい。「どうしても嫌なら左奥の牢屋だけ開けろ。ワラの山の中に剣があるはずだ」と言ってひとつの牢屋を指差す。

錠前は素人レベルのもので、いまのシフには朝飯前だった。カチャリ、と音がして、鉄格子が開く。「手慣れたもんだな。Perk のおかげか?」とタニシ。

「わからない。ぱぁーくを取ったら手の緊張がなくなった気がする」そう言ってシフは中に入ると、しゃがんでワラの山を探った。

開錠の星は知識を授ける。ある盗賊はそれを「スイートスポットが広くなる」と言う。いずれにせよ、開錠の知識を得た者は力加減を知りロックピックが折れにくくなるのだ。

やがてシフの手に硬いものが触れる。骨ではない。

「あっただろ?」とシフの背中からタニシが言う。

「ああ、『デイドラのダガー』って書いてある。でも」続きを言う前に、タニシが急いで顔を寄せた。「デイドラ !? 黒檀じゃなくてか」「見ろよ」

シフが見せたのは、『デイドラのダガー』

と書かれた日記だった。

へなへなとタニシの力が抜ける。「そりゃないぜ…」

ここには黒檀のダガーが置かれているはずだった。シフの持つ鋼鉄の剣よりも刃渡りは短いが、攻撃力、速度ともに上回る秘密兵器だったのだ。疲れやすいシフでも扱えるので大幅な戦力アップを期待していたのだが…。

俺が知るよりも世界は厳しくなっている。タニシは心の中で思った。

「悪かったな、シフ。俺の勘違いだ」落ち込んだ様子でタニシは立ち上がり、「先に行こう。みんな待ってる」と促した。シフは頭に疑問符を浮かべたまま、日記をしまって後を追った。

****

シフたちが前の三人に追いつくと、彼らは通路の両側にしゃがんで待機していた。ガシャガシャ鳴るシフの足音に一人が気づいて振り返ると、「遅かったな」と険しい顔で言う。

「敵か?」とタニシ。「ああ。向こうは三人。二人は弓を持ってる」「厄介だな」「このまま行けば蜂の巣だ。でも脱出できる道はこの先にしかない」

「それを見越して待ち構えているわけだ。くそっ」予想外の事態が続き、タニシが悔しそうに言う。


「私が行こう」


シフがそう言った。「待て。お前はまだ戦い慣れてない」「私がみんなの盾になる。矢をひきつけている間にみんながやつらを倒してくれるのを祈るよ」

タニシが止めるのもきかず、シフは盾を持って駆け出した。「遅れるな」タニシたちも武器を構えて急ぐ。

ガシャッ。

金属音を鳴らして通路から飛び出した影に、帝国兵の注意が集まった。味方か。帝国軍の鎧をまとっている。だが動きはぎこちなく、訓練を受けた者のそれではない。

「敵襲だ ! 」

言うが早いか、風切り音をたてて鋭い矢がシフに放たれた。一本は腕をかすめ、もう一本はレガースの表面を大きく抉る。だが矢では鋼鉄を貫けない。シフは急所を守るよう盾を真正面に構え、じりじりと進む。するとその側面から両手斧を構えた敵が迫った。

「そうはさせるか ! 」

シフの背後からタニシら四人が躍り出し、散開する。敵が新たな矢をつがえる前に、勇敢な戦士たちは一気に襲いかかった。

****

「噂どおりの活躍だな」三人は口々に、自分たちに勝利をもたらしたシフの勇気を賞賛する。そのなかで「まあ銀狼というより亀だが」とからかうのをシフは聞き逃さなかったが、勝利の余韻に水を差すのも良くないので我慢した。

一人がタニシに告げた。「タニシ。お前と銀狼は先に行ってくれ。今度は俺たちがお前たちの盾になる」「ウィンドヘルムで会おう」「もしくはストームクロークの野営地でな」

冗談にタニシを含めた四人が笑う。その様子を見ていたシフに、タニシが「行こう」と促した。シフは三人に「お元気で」とだけ言ってその場を去った。

「重装が弓矢に強いのを知っていたのか?」歩きながらタニシが聞いた。「いいや」とシフ。

「盾を持っていたのは私だけだったから」

だから守らなくちゃって思ったんだ。そうシフは言った。タニシの心に何か灯ったような気がしたが、それが何なのかはわからなかった。

「そうか。一応、装備は三すくみの関係にあるのを覚えておくといい。重装は矢をはね返す。矢は服を貫く。魔法は鎧を通す。鎧、弓、魔法の三すくみだ。だから重装を身につけたシフの天敵は魔術師だ。いいな?」

シフがうなずいたそのとき。

ズドン !

後方で轟音が響いた。二人は驚いて振り返る。


三人の仲間が立っていた場所。そこがガレキの山に変わっていた。



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