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遠くでぼんやりと明かりが灯るような気がした。それが徐々に近づき、身体があたたかくなってくる。その熱は強まっていき…

「あちいっ !! 」

タニシが激痛に飛び起きた。と、人の気配を感じ、その方向へ顔を向けた。

「…シフ」

そうだ。全身の血流が頭へ向かうように、一気に記憶がよみがえる。クモ。クモを倒さなければ。手をついて立とうとすると、ぐしゃり、と何かを豪快に潰した感触があった。見ると、焦げた黒い灰が液体を飛び散らせている。それだけじゃない。その塊がタニシの全身を覆っている。

「うわっ」

あまりの不気味さに、タニシはその場で転がるようにして両手両足で塊を払う。

「ちょっと、汚いな、やめろよ」シフが顔を手で覆って嫌がる。

まさかこれは…全部クモか?シフがやったのか?だがどうやって。我に返ったタニシは、シフの様子が違うのに気づく。

外れない首輪こそそのままだが、シフが身につけていたのは鋼鉄の鎧ではなく、檻で手に入れた魔術師のローブだった。魔法エネルギーであるマジカを増やし、その回復速度も高める一品である。

「シフ、それ」タニシが指差すと、いつまで寝ぼけているのかとばかりに、シフの手が炎を放つ。「熱いっ ! 」タニシは顔を抑えながら、情けなく飛びはねた。

「ばぁーか」そう言ってシフはクスッと笑ったようだった。


タニシが去った後、シフは『スカイリム動物寓話集』を開き、クモの弱点が『炎』だと知った。いま炎を操るには破壊魔法の Perk を取得しなければならない。『 Requiem 』の本は手元にないが、たしか、その星座は手の平を描いていたはずだ。

-- その資格があるなら、ただ心に願うだけで星は応える --

シフは祈り、破壊魔法すべての基本となる星に最後の力を捧げた。すると、まるで封印が解かれるように未知のエネルギーが全身に注ぎこまれるのを感じた。そして呼吸の仕方を知らずとも人が息をできるように、シフは手の平から炎、そして雷を生み出せるようになっていた。

ただ、重い鎧を着ていると精神の集中が乱されるようで、爪の先ほどの火を灯すだけでマジカを使いはたしてしまった。体力と違いマジカは自然と回復するようだが、これでは使いものにならない。なるほど魔術師が鎧を着ていないのはそういうことか、と仕方なくシフは鎧を脱ぎ、魔術師のローブに着替えてタニシを追った。

やがてそこかしこで白い卵塊が目に入り、ワサワサと忌まわしい音が耳に届きはじめる。地面に飛び散る緑の体液、千切れた足などの残骸、そして点々と続く…赤。

タニシ。

シフは勇気をふりしぼって音の大きな方へ進んだ。かゆい。触れていなくても音を聞くだけで身体がかゆい。全身に鳥肌がたっている。それでも足を進めると、暗がりのなかで、黒く蠢く何かが目に入った。

その正体を確かめる前に、反射的に炎を放っていた。

炎の力は偉大だった。子グモは始めこそ飛びつこうとしてくるが、その毛が燃えあがるやいなや、まさに蜘蛛の子を散らすように逃げていく。素晴らしい。嫌いなクモに近づかずとも、手をかざして念じれば勝手にやられていく。

戦いのなかでは、緊張からかマジカの回復速度が遅くなるようだ。それを手持ちのマジカ回復ポーションで補い、シフは火炎放射器のように炎を放ち続けた。途切れれば襲ってくるような気がして怖かったからだ。そうして最後の親グモまで倒し、ひとかたまりになった子グモの群れを葬ると、中からタニシが出てきたのだった。


シフは持っていた治癒のポーションを差し出した。だがタニシは受け取らず、口を開いて出てきた言葉は「火炎はマジカが切れるまでずっと撃ちつづけているのか?」だった。

「それよりも先に言うべきことがあるんじゃないか」と不満をあらわにするシフ。魔法を使うようになったのか。鎧はどうした。よくやった。そうした言葉を期待していたのに。タニシはシフの気持ちなどおかまいなしいった様子で、「破壊魔法のスキルが低いうちは、炎そのものよりも燃焼ダメージの方が大きい。細切れに打ったほうがいいぞ」と言う。

「こんなやつ助けるんじゃなかったよ」口を尖らせるシフ。と、タニシの異変に気づく。すでにほとんどの傷が塞がっていたのだ。

「タニシ、どうして治ってるんだ?」

「ああ、ケガのことか」タニシは何事もないかのように言う。「おかしいじゃないか。私はそんなに早く治らないのに」

そんなにすぐに治るなんて、まるで。

まるで故郷のスカイリムにいた頃の自分みたいじゃないか。



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