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「偽りの心で得られる利益など、破滅的な結果しかもたらさない ! それはこの街が証明しているじゃないか ! 」

「交渉でうまく収まるならそれでいいじゃない ! それにリフテンの人たちを悪く言うのはやめて ! 」

聖堂で二人の司祭が激しく口論している。マラマルとディンヤ。シフの相談をきっかけに、互いの信念をかけた大喧嘩に発展してしまったのだ。

いつまでたっても二人の口論は治まらない。それを仕掛けることになってしまったシフは、止めることもできないまま、かといって聖堂を出るわけにもいかず、耐えつづけるしかなかった。仕方なく、本棚にある『ペリナルの歌』をこっそりと読む。

ペリナルの伝説はシフも知っている。残虐な支配者だったアイレイドの王国を撃退した、半神の英雄だ。彼は戦いのなかで八つ裂きにされ命を落としたが、その武具は、スカイリムの南、帝都があるシロディール地方の各地に点在し、『九大神の騎士』の伝承へとつながる。

九大神の騎士は、ペリナルの遺物を取り戻し、九大神への信仰を取り戻そうと興った騎士団だった。彼らの下には、志をともにする多くの仲間が集まった。だが、皇位継承問題を発端として内戦がおこり、かつての仲間は敵味方に分かれ殺しあった。戦後、騎士の一人だったカシミール卿は、ペリナルの遺物のひとつ『聖戦士の籠手』を所持し、聖職者として余生を過ごした。

カシミール卿の聖堂には、他の例に漏れず、物乞いがよくやってきて金貨を求めた。ある日、あまりのしつこさにうんざりしたカシミール卿は、思わず物乞いをはたいてしまった。彼は頭を打って死んだ。その瞬間、聖戦士の籠手はステンダールの怒りによって地に落ち、誰にも持ちあげられなくなった。

…ああ、聖女マーラよ。

シフは腕を組んで祈った。その逸話を思い出すたびに苦しくなる。戦争は人間から心を奪う。それに、いつ自分がカシミール卿のようになるまいかと、怖かった。


…物乞い?


そのとき、神々の心とつながったような衝撃がはしった。

「そうか ! 」

シフは聖堂に響きわたる大声で叫んだ。マラマルとディンヤは驚き、シフを見る。

「お二人ともありがとうございます ! 」

きょとんとする二人の司祭に目もくれず、シフは聖堂を飛び出した。


「タニシ ! 」

市場の手すりに腰かけハチミツ酒を飲んでいたタニシは、急に飛びついてきたシフに思わずビンを落としそうになる。

「お、おい。どうした」

「わかった ! わかったぞ ! 」こんなにきらきらした笑顔のシフは見たことがない。ガラにもなくタニシは照れてしまう。するとその表情にシフは我を取り戻し、軽く咳をして身体を離す。

「…何があったんだ」

「…」互いに耳まで赤くなり、目が合わせられない。シフはむずむずするような身体を、腕組みをして抑え話し始めた。

「私が貧しい人に金貨を渡すと、神々は祝福をくれる」「…ああ、そうだな」何の話かタニシはわからなかったが、とりあえず相づちをうつ。そして、自分たちがおかれている状況も彼らと大して変わらないという事実は指摘しないでおいた。

物乞いへ施しをすると神々は喜び、『慈悲の贈り物』と呼ばれる加護を与える。その慈愛の心が相手の警戒心を解くことで、一時的に話術が高まるのだ。この祝福は特別で、盗賊や山賊に身をやつした者であっても与えられる。弱き者へ優しい眼差しを向ける者は、誰であれ神々に祝福される。

「この祝福を授けてくれるのは誰だ?」シフが問う。

「誰って、話術なんだからディベラだろ?…あ。そうか」

タニシはそこでシフが何を言いたいのか理解した。シフの悩みが解決したのだと。

慈悲の贈り物は話術を高める。話術の祝福を授けるのはディベラだ。マーラではない。そしてこの祝福は貧しき者を助けた全ての人に与えられる。つまり、もしシフがマーラ以外の祝福を受けないつもりなら、シフは貧しき人々を誰一人助けられなくなってしまう。

「マーラの教えを守るために困っている人を放っておくなんて私にはできない。だから、良い事につながるのなら、私はマーラ以外の祠にも祈れるよ」

「ああ。そうだな」

まるで難問が解けたかのように喜ぶシフ。タニシはそこに水を差さないよう黙っていた。慈悲の贈り物とディベラの祝福が同じとはいえ、それを授ける神まで同じとは限らないことを。ただそれを言えばシフはまた思い悩んでしまうだろうし、タニシは誰の祝福だろうがどうでもいいと思っている。

そんなことよりも、タニシは先ほどシフが見せた笑顔が気になって、忘れられなかった。目に焼きついていた。シフはいつも眉間に皺をよせむっつりしているが、あんな顔もできるのだ。またあの笑顔を見たいと思った。



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