# 066
香川県の港に錆びたドラム缶が大量に漂着した。なかには加工前の油が入っていたという。困った自治体がSNSで情報提供を求めると、缶に書かれていた番号から持ち主が判明した。日本海で船が沈没する事故が起き、その貨物が20 年以上の時をへて、ついに入り組んだ瀬戸内海までたどり着いたのだ。
# 067
関門海峡の壇ノ浦にて平家は滅び、当時数え年八歳であった安徳天皇は波下の都に移ったとされる。その無念を示すように、海は夜になると真っ赤に染まったというが、昭和の終わり頃からその報告はない。一説には、観光地となったことで風情を失い、それを厭わしく思った霊魂が姿を隠したためといわれる。
# 068
鳥の一種であるインコは、抜群の記憶力と、録音機顔負けの復唱能力をもつ。なかでも有名なのはコンゴウインコのピピだろう。スパイ鳥として東南アジアで二つの大戦を生き抜き、人間以外で唯一、名誉勲章を授与されたからだ。彼の剥製はメダルとともに博物館に飾られている。絶滅した動物として。
# 069
現代アートの展覧会で芸術家が刺された。犯人は「芸術が侮辱されているのが耐えられなかった」と供述している。事件のきっかけとなった作品は食べ終わったカップ麺の容器だった。なお警察は捜査のためそれを借用し、その後返却したものの、美術館側は「容器が違う。作品を返してほしい」と訴えている。
# 070
伝説のレーサー、バシナスは、大事故からの復帰戦で10 台抜きの偉業を果たして優勝したが、インタビューで奇妙なコメントを残した。「レース中に光と競争したのさ。そのとき、ヤツに勝つには未来を読めばいいとわかったんだよ」と。そこで記録されたトップスピードは20 年経った今も破られていない。
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