# 086
「カオハギさん」という都市伝説がある。夏、カワハギの描かれたシャツを着て、日が沈んだ道に現れる。夜に出歩いている子供を捕まえ、顔を剥いでしまうそうだ。子供を早く家に帰らせようという親の願望が生みだした怪談なのだろうが、江戸時代の書物にはこれとよく似た犯罪者の記録が残っている。
# 087
新たな素材が開発されるたび問題になるのは、人体への影響だ。その日もベルリンで環境問題のワークショップが行われていると、ヒジャブを巻いた一人の女性がやってきて、どれを規制するべきか次々に示した。理由をたずねると、「燃えたときに危険なものは故郷の内戦で知っている」と答えたという。
# 088
稲瑞村の崖には今にも落ちそうな巨石がある。その下は道路になっているため、たびたび撤去するよう話が持ち上がるのだが、住民は『山神のヘソを取ればバチが当たる』と激しく反発している。その伝説を裏付けるように、大学の研究チームによると、石の成分はヘソのゴマと一致するという。
# 089
都内の荒川で、ネズミ色をした板状の物体が発見された。ゼラチン状の物質でぬめぬめしており、取材を受けた研究者は「ナマズの尻ビレの一部でしょう」と答えた。問題はその大きさだ。その物体だけで川幅ほどもあり、持ち主となるナマズ本体の大きさは想像もつかない。誰かのいたずらなのか、それとも。
# 090
駅の壁に蚊が塗料ごと塗り込められている、というSNSの投稿が話題になった。『誰かの血を吸っているかも』、そんなネットの意見を反映するように、蚊の体内からは人間のDNAが発見された。ニヶ月後、一人の男が逮捕された。行方不明の、当時中学生だった子供をそこで殺害した疑いで。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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