# 081

東京に暮らすY氏は、自宅裏の空き地に繁茂する雑草に悩まされていたのだが、ここ数年、草が伸びないのを不思議に思った。野良犬などの餌場にされていると厄介だ。そこで真相を確かめるべくカメラを設置すると、翌日の映像に犯人が映り込んでいた。飢えをしのぐため野草を摘む、知人の姿が。

# 082

一般に、洗濯槽で衣類が偏ると、洗濯機は激しく振動して停止する。このとき、すぐにフタを開けるべきではないと訴える者がいる。中にあるのが洗濯物だけとは限らないからだそうだ。ある人は内側から叩く音を聞いたと言い、またある人は「半透明のフタの向こうからこちらを覗く目と合った」と言う。

# 083

N県に住む男性が、ウェブチャットで知り合った女性と会うために上京した。日も沈んだお台場、まばらに灯る明かりの下で彼女は待っていた。その顔はスマホで見たときと同じ、満面の笑顔だ。確かに彼女だった。毛糸玉をばらしたような身体をくねらせ、猛烈な速度で這ってくるのをのぞけば。

# 084

古代マケドニアの政治家デラスは清廉潔白で誠実な人物だったが、選挙に出るたびに落選した。そこで親友のクリュセイスにアドバイスを求めると、彼は笑って答えた。「あなたの演説は素晴らしい。内容も完璧だ。けれど、炎天下で聴衆が倒れても放っておく政治家に、いったい誰が投票するのか?」と。

# 085

戦争体験を語れる者も少なくなった現在、ある記者が102歳の老婆から貴重な話を聞き、地元のイベントで発表した。すると一人の参加者が、自分も同じ人から話を聞いたと言った。しかしそれは何十年も前のことであり、彼女はすでに亡くなっているという。天国からの贈り物だったのだろうか。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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