# 101
四国のとある廃坑に車を停めると、窓に手形がつくという噂がある。しかも手形は内側からつけられているそうだ。人ならぬものが車に乗り込むだけでも恐ろしいが、この話には続きがある。最近、それに酷似した怪奇現象が大阪でもみられ、徐々に東へ進んでいるという。夜道にはご注意いただきたい。
# 102
画家・大島齋は、死後に作品群が発見された人物である。精神遅滞だった彼は座敷牢のなかで誰にも知られず絵を描いていた。作品はどれも部屋の小窓から見える景色を描いたもので、その写実性は見るものを圧倒する。ところで、どの絵にも不気味なほど笑顔の女がまぎれこんでいるのだが、誰なのだろう。
# 103
アイルランドの司書が物理学者ボイルの遺稿を整理していたところ、奇妙な記述を発見した。ふつう、傾けた板に水を流せばいくつもの雫ができる。ところがある物質を水に混ぜると、生き物のように一つの形を保ち続けたという。ボイルいわく、それは金粉だったと。水も財産を奪われまいとするのだろうか。
# 104
南米のある文明では、王のなきがらを銀の棺に埋葬する風習があった。貴金属で遺体を覆えば、神として転生すると信じられていたからだ。そして昨年、国の許可のもとで棺が開けられた。継ぎ目のない縁をレーザーで切り開くと、内側には鋭い爪で抉ったような跡がある。何を埋葬したのだろう。
# 105
紀元前・周の時代、医師の陸信は奇妙な方法で患者の頭痛を治していた。轟音がこだまする洞穴のなかで患者の『気』を読み、病巣を発見して頭を切り開いたのだそうだ。詳しい記録は後の焚書坑儒で失われたが、彼が『気』と呼んだ部分を『磁場』に置き換えるとfMRIの仕組みとよく似ているという。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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