016

「アカトシュの落とし子をこうもたやすく倒すとは、見事なものだ銀狼よ。お前の偉業は英雄の間で未来永劫たたえられることだろう」

ソブンガルデの門番ツンが淡々とした調子でシフを賞賛する。

「しかし残念だ銀狼よ。お前は生まれてくるのが遅すぎた」

「遅い?どういうことだ」ツンの言葉にシフは不穏な気配を感じる。だがツンは眉ひとつ動かさずに言った。「ムンダスの綻びを結ぶ針は遠い昔に失われた。神々の黄昏が過ぎし後、その全てはオブリビオンへと帰るだろう」

シフの鼓動が高まる。「全てって…スカイリムもか」「無論だ」

北方にスカイリム地方の位置するタムリエル大陸。その大陸をもつ星ニルン。そしてニルンとともに数多の星が浮かぶムンダス。その全てが、この神々の黄昏が終われば、消える。ムンダスに縛られた神々とともに。

非情な真実に、シフは支えを失ったようにくずれおちた。…それなら私は、何のために『世界を食らうもの』を倒したんだ?何のために…。

ツンは振り向き、ソブンガルデの主・ショールの神殿、別名勇気の間を見上げる。空は曙と薄暮のまざりあったあざやかな渦を描き、神秘的な光をそそいでいる。

「ついてくるがよい、銀狼よ。多くの英雄がお前の帰還を待っている」


「私をスカイリムに帰してほしい」


うなだれたまま、シフは言った。さすがにツンも驚く。「なんと、ソブンガルデで栄誉にあずかる権利を自ら捨てるというのか?」

シフは大剣を杖のようにして立ち上がる。「私は定命の者だ。スカイリムで、聖女マーラとともに歩む。最後のときまで」

わずかに間があった。それは門番が判断してよいことなのか迷ったのかもしれない。だがショールは決して答えない。見守るだけだ。

「ふむ。決意は固いようだな。よかろう。だがムンダスとともに消えればお前がソブンガルデを訪れることは二度とかなわぬのだぞ?」「無論だ」

シフはツンの真似をし、寂しそうに笑った。

ツンが息を吸い、満ちみちたマジカとともにシフに吹きつける。するとシフの身体は一瞬にして真っ暗な宙へと放り出された。

そうして意識を失うまでのわずかな間、シフは歯車が回る音とともに、『 Requiem 』と耳にささやかれたように感じた。



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