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天を仰ぎ涙を流す聖女マーラの彫像。聖堂の奥に位置するそれは、ただ眺めるだけで慈愛の心に満たされるような、不思議な魅力を放っている。その手前、台座に乗せられた小さな祠は、九大神を信仰する者の病を癒やし、治癒師としての力を高める加護も授ける。

ぼんやりとした明かりが夜の聖堂を照らすなか、ダークエルフの女司祭ディンヤ・バリュは祈りの聖句を捧げていた。長椅子には見慣れぬ容姿の戦士と、その肩によりかかり穏やかに眠る、ケープをまとった旅人。

ダークエルフは灰色の肌に赤い目をもち、スカイリム東方のモロウウィンドで暮らしている種族である。その肌は炎を遮り、魔法を扱う才能にも長ける。ただ、九大神信仰において悪神とされるデイドラを信仰する者が多く、また独自の文化を頑なに守ろうとするため、スカイリムでは嫌われることも珍しくない。

そんなダークエルフの一人であるディンヤは、聖堂の司祭を務めるマラマルと恋に落ち、そして結ばれた。現在は犯罪のはびこるリフテンで、愛することの貴さを日々説いている。それでも信仰で腹が膨れるわけでもなく、冷たくあしらう人々も多い。だからこの日、聖堂にやってきた二人の訪問者、とくにケープの旅人が幸せそうに祈りを捧げていることが、ディンヤはこの上なく嬉しかった。マーラの慈愛はスカイリムに根付いていると感じられたからだ。

ディンヤが祈りを終えると、椅子に座っていた戦士タニシがシフを横に寝かせ、台座までやってきて口を開いた。

「アミュレットがほしい」

「まあ。あなたもマーラの使徒になりたいのね」ディンヤが歓迎する。「悪いが俺は今のところあんた達の言う神を信じていない。ただ、あそこにいるシフにプレゼントしたい。あいつは心の底から信じているみたいだからな」

「そう。あの子はシフっていうの」そう言ってディンヤは少し残念そうな顔で、ポケットからマーラのアミュレットを取り出した。中央に嵌めこまれた小さな聖石を、細かな装飾で彩っている。その形はマーラの祠を模したものだ。

「200 セプティムよ」

「思ったより高いな」タニシが率直に感じたままを言う。「私は商人と違って欺くつもりはないわ。神の前ではみな公平なんだから」

その言葉に恐らく偽りはないだろう。どれだけ話術が巧みであろうと、神をごまかすことはできない。タニシは 200 セプティム、すなわち四泊分の宿代と引き換えに、重みのあるアミュレットを受けとった。

これは本格的にシフと稼いでいかなきゃならなくなったな。タニシは羽根のように軽い財布をしまいながら思った。

「なあ」「何かしら?」

呼びかけてからタニシが少し沈黙する。やがて迷いを含んだような調子で言った。「もし俺がシフを守れるなら、そのための加護を与えてくれるなら、俺はその神を信じてやってもいい」

ああ、とディンヤが笑みを見せる。聖堂に入ってきたときから思っていた。この戦士は、シフというかわいらしい旅人を本当に大切に思っているのだと。

「あなたが心を寄せる人は、あなたのことをどう思っているのかしら?」「なっ」なんだこの質問は。「それを聞いて何になる」

狼狽するタニシにディンヤは得意な調子で言った。「大事なことよ。互いに信じあって、支えあっていく。それがマーラの教えなんだもの」

「支えあう?」「そう。この世界には、相手をうまく利用してやろうとか、おとしめてやろうとか、人を道具のようにしか思っていない人もいるけれど、それではダメ。信じた相手に手をさしのべて、互いに思いあって、そして声をかけあって人生を歩いていく。そうすれば、どんな暗闇にでも光がさすわ」


『この世界が、憎しみと裏切りばかりで、みんな誰を信じていいかわからないなら、なおさら私は人を信じたい。信じあって生きていきたい…』


「どうして人を信じられるんだ?」

タニシの言葉に、ディンヤの顔から笑みが消えた。「俺はシフを守るためなら何でもする。心臓を捧げたって構わない。でもそのために人を信じなきゃいけないんだったら、俺はあんたらの神を信じることはできない」

「…」ディンヤは目を閉じ、問いの背後にある意味を考えた。…この戦士は、すぐそばで眠る人をこれほどに強く想いながらも、それを素直に認められないでいる。人に対する強い不信が邪魔をしているのだ。相手を信じられなくなった理由をたずねる必要があるだろう。ああ、夫のマラマルがここにいなくて本当に良かった。彼なら無理にこの戦士を説得しようとして、騒動になってしまうだろう。

タニシの目を見据えて言う。「よければ、あなたについて教えてくれないかしら?まずは…そう、名前とか。私はディンヤよ。ディンヤ・バリュ」

「俺はタニシ。黄昏の女神にしてデイドラの王子アズラの信徒だ」



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