013

「絶対やだ」

どっさ、とシフは毛皮と肉を下ろし言った。

「黙って聞いてれば好き勝手言ってさ、そんな言い方で人を納得させられると思ってんの?」

怒りに任せてぶちまけながらツカツカとタニシに近づく。

「ちょっとハンマー振るのが得意なだけで良い気になって、クモに襲われて死にかけたのはどこのどいつだよ ! 」

口を開いて言い返そうとするタニシに隙を与えず、シフはたたみかける。「鎧なんか重いんだから着て疲れるのはあたりまえじゃん ! タニシみたいにケガしてもすぐ治らないんだから盾で守るのはあたりまえじゃん ! 弓なんて持ったことないんだから引けないのはあたりまえじゃん ! 」

タニシの胸に問うように、シフは指で突きながらなおも続ける。「せっかく持ってた星もタニシのために使いきってさ、言われたとおりに隠密も最高まで上げたのにさ、脱出した途端に『この世界で生きるのは難しい』ってどういうつもり !? 人の財産と時間を何だと思ってんの !? おまけに私を聖職者気取りなんてバカにしてさ、人を盗賊扱いしてさ、何様だよ !! 」

「後悔しないためだ」

そうタニシは言った。ギリッと歯をきしませるシフに、続けて言う。「俺と会ったということは、俺と同じくらい、後悔してたってことだ。そうだろ? 自分の過去、もしくは他の何かに」

奇妙なことを言い出した。何だ? 怒りで支配されていたシフの心をじわじわと疑問が侵食しはじめる。山地に響いていた大喧嘩に自然の住民たちは息をひそめ、二人のなりゆきを見守っている。

「俺はシフに会う前、誰にも負けないスカイリム最強の戦士だった。吸血鬼も一撃で倒せるほどにな」

そこまで言うと、タニシは何か嫌なことを思い出したのか、気分を落ち着けるように一息つく。

「けどそれは幻想だった。俺はドラゴンに全く歯がたたなかった。悔しかった。悔しくて悔しくて、悲しかった。だから祈った。俺と同じように、強大な敵に屈し、未練を持つ者。その者を助け、思いを遂げられるまで、全てを捧げて守り抜くと」


「おえーっ」


シフがわざとらしく言った。「気持ち悪い。もう駄目。もう無理。無理です。絶対無理。限界。じゃあね」下ろした荷物をそのままに、シフはすたすたとタニシの前を通り過ぎていく。

話は終わってない。そう言おうものなら「二度と話しかけるな ! 」と返されるだろう。タニシは思いの続きを言わず、「リバーウッドまでは一本道だからな、迷うなよ」とだけ言った。それすらもシフには不快なのか、だん ! と強く足を地面に叩きつけ、無言で坂を下っていった。


ヘルゲンがドラゴンに襲われ、灰になった。付近でそんな災害があったとは思えないほど、景色は輝いている。鳥はさえずり、木漏れ日がきらきらと地面を照らす。空気はどこまでも澄んで、心地良い川のせせらぎは傷ついた心さえ洗い流す。

そんな風景にアクセントを添える山賊とオオカミ。

山賊とオオカミ。

「たっ…」すけて。最後まで言わずシフは全力で駆けた。こんな場所で助けを期待するのは愚かなことだ。叫べば敵に位置を知らせることになる。姿をくらますため、道をそれて木々の中に飛び込んだ。

鎧を身につけていたときに比べ、服は身体の動きを邪魔しない。軽い。ヒュン、ヒュン、と矢が奏でる死の音色に震えあがりながら、シフは森の中を走りつづけた。次第に人の気配は消えた。だが状況は悪くなった。オオカミは二頭から三頭と数を増やし、執拗に追ってくる。しかもそれは群れとなって、まるでシフを囲むように、互いの距離を縮めつつある。

やめろ。犬畜生の分際で頭脳プレイなんかよせ。

私は銀狼なんだ。お前たちなんかよりずっと偉いんだ。

だから私を見逃していただけないでしょうか。お願いします。



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