018
ウィンドヘルム首長ウルフリック・ストームクロークの反乱を機に勃発したスカイリムの内戦は、帝国軍と反乱軍とのあいだで泥沼の様相を呈している。それは絶え間ない木材の需要も生み、寂しい製材所だったリバーウッドに富をもたらした。いまや街道をはさむように雑貨屋、鍛冶屋、宿屋が軒をつらね、商人や旅人、難民、狩人、盗賊、さまざまな人々が行きかう村に発展している。
「アルヴォアおじさん、『職人のマニュアル』はあるか?」タニシが鍛冶屋のアルヴォアにたずねた。アルヴォアは丸太のような腕でハンマーを振りながら、「金はあるんだろうな?」と返事をする。
そして手を止めて振り返ると、首を振って「金貨じゃなきゃダメだ。俺の手持ちがない」と断った。タニシは指で宝石をつまんだまま、「なんだって?アメジストひとつ買い取ってくれないのか」と不満をあらわにする。「文句ならうちの妻に言うんだな」
「誰のせいだと思ってるのかしら?」ぐいとアルヴォアの耳がひっぱられた。「いたた」「あなたにお金を持たせるとすぐにスッカラカンになるまで飲んじゃうからでしょ ! 」
アルヴォアの妻シグリッドが耳に直接叫んだ。目を白黒させるアルヴォアに、タニシは腹を抱えて笑った。
「まあ、そういうことだから、金を持ってきな。そうしたら…おい ! 」それまでタニシに話しかけていたアルヴォアは、何かに気づいたとたん、慌ててシグリッドの手を払い、鍛冶場近くに立っていたシフから本を取り上げた。「子供が読むもんじゃない ! 」
子供じゃない。普段ならそう言い返すはずのシフは、本を広げた姿勢のまま固まっている。アルヴォアは本を箱に仕舞うと、ガチャリと鍵をかけた。当然シグリッドが黙っているはずもなく追及をはじめたが、始末がつかないと判断したタニシは肩をすくめ、無表情のままカチコチになったシフを促して鍛冶屋を去った。
製材所の切り株に腰かけたまま、シフは先ほど見た物の衝撃を思いかえしていた。それは、際どい鎧を身につけた戦士たちがポーズをとる画集だった。自分がこれまで見てきた無骨な鎧とは違う、機能性あふれる魅惑のデザインに、シフはあこがれた。鎧って、あんなにかっこいいものだったんだ。頭の中で、戦士たちが勝手に動きはじめる。美しい身体が躍動する。自然と笑みを浮かべてしまう。そしてそんな鎧を身につけた自分を想像しては、顔を赤らめてしまう。タニシは一人で笑っているシフをしょうがないなと思いながらも、明るさを取り戻したシフに安心をおぼえながら、薪割りを手伝っていた。
水車の隣では、丸太の山を前にホッドが帳簿を書き込んでいる。「その木材はどこの依頼だ、ジャルデュル?」「ええっと、あー、シドゲイルよ。ほら、ファルクリースのおぼっちゃん」
返事をしたジャルデュルは額に手を当て溜め息をつく。「ほんと、ストームクロークが早くあいつらを追い払ってくれたら、あのだらしない顔を見なくて済むのに」「おい、妙なことは言うもんじゃない」
スカイリムの反乱軍に与する人々は、彼らをストームクロークと呼ぶ。それは反乱軍の指導者ウルフリック・ストームクロークに由来するものだ。もともとは帝国軍が彼らを蔑む目的で呼んでいたのだが、勢力が拮抗する今となってはもはや蔑称としての意味をなさない。
「あ、ファエンダル ! その薪は木炭用だからね ! 」「ああ」割った薪を持ったファエンダルは、積まれた薪の山に雑に放りこんだ。「ちょっと、崩れちゃうでしょ、気をつけて ! 」「ああ」
ファエンダルと入れ違うように薪を運ぶタニシ。代わりに山を直すと、そろそろシフの気も落ち着いただろうと、切り株に腰かけたままのシフに話しかけた。「どうだ?夢から帰ってきたか?」
呼びかけられたシフははっとして顔を上げる。「へ?…な、何?」「しっかりしろよ。まだ朝から何もしてないぞ」「あ、ああ…うん。うん」「はぁ…」
「タニシ」シフが呼んだ。「なんだ?」「私、鎧、着てもいいよ」「なんだ?何の話をしている?」「かっこいい鎧なら、私、着てもいい」
シフが初めて前向きになったように聞こえた。いまいちタニシには状況がつかめなかったが、「鍛冶を極めれば、どんな鎧でも作れるようになる」と調子を合わせた。
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