中央線高ノ台行
高ノ台行きの中央線に乗るまでの話。
在学中に資格が取れなかった私は,試験を受けて再度入り直してから資格の申請を行うことになった。8 月 3 日,午前 2 時 30 分のことである。願書の締切は 8 月 3 日,午前 9 時迄,となっているので,本来なら今から手続きを行おうとしても間に合わないのだが,実は事務課は午前 8 時に開くので,締切当日に申請ができるという裏技がある。これは資格がとれなかった私のような者のために用意された抜け道といえる。
そうはいっても猶予がないので,駅に向かうバスを待ちながら手元の端末で時刻表を確認していると,駅に着いたら 8 月 2 日 29 時 34 分発の電車で 4 駅乗り,そこから中央線高ノ台行に乗り換えると最短で事務課に着くことがわかった。隣に立っていたおっさんがのぞきこみ,「もう日付は変わったよ」と言ってくるが,「24 時を過ぎているから大丈夫です」,と雑な返事をした。
バスは後ろ乗りだった。IC カードの認識が甘く,出発が遅れる。前の人が何度も叩きつけ,支払いを知らせるチャイムが 2 回鳴ったように聞こえたので,キセルができるかと思ったがそう甘くはなかった。
駅に着いた頃には 3 時半を回っていた。電車が出る時刻まで駅二階の共同寝所でザコ寝でもしようかと思ったが,待合室は修学旅行の女子生徒でごった返し,とても休めそうにない。仕方ないので共同シャワーで汗だけでも流そうと思い,浴室に入ったはいいが,そこにも生徒の群れ。日頃の閑古鳥ははるか昔,奇声の飛び交うなか,8 つのノズルを大勢で取り合い,湯をあびているのか汗をあびているのかもわからず,ほうほうの体で抜け出す頃には 30 分が経っていた。
暇をつぶすため外に出ると雨。ぶらぶら歩き,知人の家を訪ねたような気もするが判然としない。駅に戻ると 5 時を過ぎ,早い店は営業をはじめている。とはいえ,そんな時刻,客と店員の境界もあいまいで,各々朝食をとっているような状態,券売機は動いていないので,直接店の人にメニューを尋ねる。「アタカイノ」というカタコトの日本語で返事がかえってきたので,それを注文すると,十秒もたたずに丼に入れられた何かが出された。汁の少ないうどんに,えびせんのような揚げ物がいくつか浮いている。それを箸で割りながらすすり,胃が油で満たされるのを感じながら金額を支払った。980 円。1000 円札を出して釣り銭をもらったが,後で見たら 5 円少なかった。
5 時 32 分に銀色の車両がすべりこんできた。いくつかの不安が頭をよぎる。これは快速か,各停か。快速であれば目的の駅を通りすぎてしまう。だがこんな時間に間を置かず電車は来るとも思えない。空っぽの車両に乗り込み,席に着くと,ガスの抜ける音とともにドアが閉まった。
– 了 –
この物語はフィクションであり,実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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