おしゃべりしたから
その日は好きなだけおしゃべりしたから,もう満足してしまって,日記帳を開くこともしなかった。
日記のなかの大泉洋は,目の見えない人を見えるようにしたり,病気を治したりする。けれどもある日捕えられた。私も兵士に捕まって,「大泉洋を知っているか」と言われた。私は「知らない」と言った。
泣いて逃げた。嘘をついた。ごめんなさい。涙でできた海。船をこいで,こいで,どこまでもこいで,南の島についた。
みんな歓迎してくれた。それでも私はごめんなさいの気持ちで,毎日少しずつ,からだを切り取って神様に捧げた。
皮。肉。骨。とうとう九九九日目に捧げるものがなくなってしまった。魂は切り取れないので,いっぺんに捧げた。
その日の夜に,私は空へ飛んだ。どこまでも,どこまでも,どこまでも飛んで,星になって,そして,はくちょう座のブラックホールに飲まれて消えた。
– 了 –
この物語はフィクションであり,実在の人物・団体とは一切関係ありません。
(c) 2018 jamcha (jamcha.aa@gmail.com).