001
エッジが帝国内の歩道を進んでいるとき,初めて行き先が塞がれた。立ちはだかったのは二人の兵士だ。
「この先は先帝の御陵である。進むことはできん」そう兵士が発する。
エッジは服の中から腕章を取り出して見せた。「私は身分を保障された配達人です。この先には事務所があります。通してください」
「ならん!」もう一人の兵士が怒鳴った。石の壁にその声が反響する。真夜中の諍い。その様子に住人が起きだすのか,わずかに騒がしくなる気配がする。
「エッジ」パオラは心配そうにエッジを見上げ,その手を固くにぎっている。「何が起きているんですか」二人の後ろからファランが顔を出してたずねた。
「貴様たちには関係ない」そのまま引きさがらないエッジたちに,兵士は不満な様子を見せる。「私たちは郵便を届けなくてはなりません。フレイドラント協約に則り,ここを通らせていただきます」そう言ってエッジは足を踏み出した。
「止まれ!」兵士はなおも大声を出すと,ぎらりと光る刃をエッジの顔につきつけた。「…っ!」パオラが思わず口を覆う。こんな敵対的な態度がとられることなどこれまでになかった。一体何が起きているのか。いや,そんなことを聞いている時間はない。エッジは目の前にひんやりとした空気を感じながら,兵士を睨んだ。
「もし私が持っている陛下あての手紙が万が一にでも届かないようなことがあれば,あなたたちは一族含めて死罪になりますよ。いいんですか」
死罪。その言葉に兵士がたじろぐ。だが震えを帯びた声で言った。「それなら,我らが回収し,お届…」「陛下の手紙を添者以外の方が触れても死罪です。知らないはずはないでしょう。それともあなた方は,陛下への手紙を奪おうとする謀反人ですか」
「そ,そんなことはない。我らは陛下に身を捧げた戦士である」そう兵士が答えるやいなや,エッジは敬礼のポーズをとった。兵士も反射的に不動の姿勢をとる。「おつとめ,ご苦労さまです」そう言ってエッジはパオラの手を引いて警備の間を抜け,その後を離れないようにファランもついていった。
「ね,ねえエッジ」パオラがちらちらと振り返りながら声をかける。「あの人ついてくるよ」「気にしないで。早く行こう」汗でにじむパオラの手をエッジは握りなおした。ひりひりする気配を背後に感じながらも,エッジとファランは決して振り返らず歩きつづけた。
三人は路地に入り,ひとつの戸をノックした。やや時間があって,ガラス越しに三人の姿を認めた住人がドアを開ける。エッジは先に二人を入れ,自分は隙間をするりと潜り込むように中に入ると後ろ手に閉めた。
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