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「陛下は」それまで口数の少なかったファランが,意を決したように言う。「闇の力が強まっている現状を,どのように考えておいでですか」

その問いかけに音ノ眼皇の瞳から笑みが消える。驚きではないその目は,皇帝自身もファランと同様の懸念を持っていることをうかがわせた。ファランは続ける。「無礼な発言をお許しください。私はいかような罰も受けます。ですが,今は戦をやめ,手を取り合い対抗するときでは」

「ファラン殿。鬼神はかわいいか?」音ノ眼皇が聞く。ファランは喉まで出かかった言葉をこらえ,「はい」と答える。照れるエッジ。「わたしにとって,帝国に暮らす人々は子供のようなものだ。何よりも大事に思っている」

音ノ眼皇はフルーツを一口かじり,飲み込んでから言った。「それが傷つき,命を失うことを心苦しく思ってもいる。もし,三代前のわたしであれば,わたしの思うとおりに命を下したことだろう。だが今のわたしにとって,それは本意ではない」

ナプキンで指をぬぐう。「先々代から,わたしはこの地を統べる力を法に譲った。皆が法を守り,勤勉に働いてこそ国は豊かになる。法をないがしろにすれば国は滅びる。わたしはそれを侵すような,愚かなことをしようとは思わない」

皆が真剣に聞き入る。音ノ眼皇は,あくまでも自身は帝国の支配者でなく,帝国を代表する者であることを伝えた。権力は人々のものであり,決めるのも人である。そこでの決定を皇帝として認める。それが先々代より続いてきた,人の国,帝国の誇りであった。

「とはいえわたしも戦が終わるまで手をこまねいているわけではない」音ノ眼皇は髪を上げ,首のネックレスを外し手の平に置いた。「鬼神よ。配達人として,わたしからの頼みを聞いてほしい」

「は,はい!」エッジは裏返った声で返事をする。

「いまの帝国が講和を主導することはできない。それができるとすれば結晶宮にいる藍龍だけだ。ここに皇帝たるわたしの証を託す。藍龍にわたしの思いを伝えてほしい」

そうして音ノ眼皇はエッジに手を出すよう促すと,その手にネックレスを握らせた。手の平はわずかに汗ばみ,ぬくもりが伝わってくる。「もちろんタダとはいわない。国庫から引き出すわけにはいかないが,わたしのできる最大級の礼を尽くそう」

「あ,あの」手を握られたまま,おずおずとエッジは言った。「礼はいりません。そのかわり…」

「そのかわり?」「私と,おともだちになっていただけませんか…?」





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