031

地の民が向ける無機質な視線をよそに,聖騎士ポッドたちは大地の巣の底へ向かっていた。大地の巣は火の国に隣接する地域であり,すでに帝国との国境付近では激しい戦闘が行われている。火の国にたどりついたポッドらは,地の民を統べる王・聖王ハッカと結ぶため,この地を訪れたのだ。

地の民は姿形こそ人間と同一であるが,すれ違うたびに強烈な違和感を聖騎士一行にもたらす。戦いのさなかであるにもかかわらず,まるで誰も気にしないかのようにふるまっている。目に力はなく,打ち上げられ捨てられた魚のようだ。それでいながら,全ての者が視線をポッドたちに向けている。何を話すわけでもなく。

まさに監視されているようだ。はじめは不気味さを冗談まじりにからかっていたエーコも,あまりの気分の悪さに黙り込んでしまっている。それを見たポッドは手袋をはずしエーコの手をにぎった。突然のことにエーコは驚いたが,顔をほころばせると,その手をにぎりかえした。



巣の底からうなり声のような風がひびき,道を下るほどに大きくなる。ついに見上げるほどの門が現れた。

「聖騎士ポッド,天子の使いで参った。門を開けられよ」

そう精一杯の声で叫んだ。だがふきつける風の音にかき消されてしまっている。ポッドはやや困ったような顔で後ろを振り返った。魔術で風を止めようとヌウが杖を振り上げる。すると,「任せて」と言ってエーコが門の前に立ち,腕をまくって冷たい扉に手を当てた。

ズン。

腹に響くような鈍い音。エーコを中心にすべてが丸く抉られたようになっている。まもなく何かが弾けるような音と,石を引きずるような音が続いた。

思わずポッドとヌウは苦笑いし,ザイモンがあきれたような顔をしている。エーコがその怪力で背丈の数十倍はあろうかという門をこじあけようとしているのだ。門の内側にかけられた閂が剣王の力に抗うものの,ギリギリと耳障りのする音とともにと折れ曲がってゆく。

ついに人が通れるほどの隙間が開いた。同時に,それまで吹きあれていた風がぴたりと止んだ。

「ふう」エーコは一仕事終えたように額の汗を拭う。「あ,ありがとう」ポッドが隣に立ってねぎらいの言葉をかける。「まあね」と答えてエーコは軽く腕を回した。

「俺たちは争いに来たわけじゃないんだが」ザイモンが釘をさす。エーコがそれに舌打ちをする。

「まあ,謝れば済むでしょ」そう言ってポッドが門の隙間から奥へ入ってゆく。ヌウは杖を顎に当て,「こやつまで頭を毒されておる」とうなった。





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