032

門をくぐった先は光の届かない暗闇である。中を照らそうとヌウが杖で明かりを灯そうとした。

「待て」先とはうってかわって真剣な表情でポッドが言う。次いで,何も言わずごそごそと身体を動かしている。

「ねえ,何してんの。におうよ」「わざとだよ」エーコの問いにポッドが答える。ポーチに入れていた草団子を手にとってすりつぶしたのだ。それは甘さと渋みを持った香りを漂わせる。「ついてきて」



ポッドを先頭に,それが放つ香りをたよりにして他の三人が続く。「そろそろ種明かしをしてもよいであろう?」さきほど強い口調で注意された大賢者ヌウが苛立ちを隠しきれずに尋ねた。

「年寄りは魔術に頭まで毒されておる」ザイモンがヌウをからかう。「なんじゃと」「良く見ろ。といっても,年寄りには見えんだろうが」

「良く見る?」何も考えず言う通りにしていたエーコが周囲に目を向ける。「ひっ」

『それ』に気づいたエーコは震えあがり,思わずポッドの背中にしがみつく。「ちょっと,歩けないよ」困るポッド。だがエーコは恐怖のあまり石のように固まってしまった。

暗闇に慣れた目。その目にうつったのは,天井までびっしりと並んだ人の群れであった。暗闇のなか身動きひとつせず,見開かれた目をポッドたちに向けている。大地の巣に入ってからこれまでにすれ違った人々,その視線から,ポッドは地の民が光に敵意を持っていることを察した。もしこのなかで明かりをつけようものなら,無表情で立ちつくすこの者たちが一斉に襲いかかってくるだろう。ポッドだけであれば全員を相手にできようが,混乱のなかでエーコたちと同士討ちになる恐れがある。

「ほら,行くよ」そう言って急かすも,エーコの両足が固まったままだ。弱々しく「むり」とだけつぶやく。ザイモンがため息をついて言う。置いてくぞ」「いや」

すると,すっとポッドの身体が下がった。エーコの前で片膝をつき,背中を向けている。「エーコ,乗って。おんぶしてあげるから」

ザイモンが吹き出す。「ちょっと,やだ,何考えてんの」エーコが真っ赤な顔であわてる。「俺たちは先に行くから,ポッドも早く来いよ」そう言ってザイモンはヌウを連れて行ってしまう。「うそ,待ってよみんな」「ほら,早く。二人とも行っちゃうよ」

しぶしぶエーコはポッドにおぶさった。すさまじい重量にポッドの身体がミシッと悲鳴をあげる。だが気を遣わせないようつとめて平静を装い,ザイモンたちを追った。





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