033

風景が変わった。人の群れが断たれ,ほのかに光を放つ植物が目に入る。その光はごくわずかなものであろうが,ポッドたちの目には明るくうつった。

「ヌウ,見たことあるか」先ほどから無言のポッドに代わり,ザイモンが聞く。ヌウはヒゲをなで,少しうなってから答えた。「さあのう。これまで長く生きておるが,こんなものを見るのは初めてじゃ」

「ねえ,星だよ」エーコが驚いたように言った。まるでその声に応じるかのように,光の点が無数に浮かんでいる。それは地面の隅々にまで広がり,星空に投げ出されたように感じられた。

「敵か」ザイモンが構える。星々の光が急に強まった。「みんな落ち着いて」ポッドがようやく声を絞りだす。「ポッド,もういいよ。ありがと」そう言ってエーコが背中から降りたものの,ポッドの腰は曲がったままだ。その奇妙な姿勢にザイモンの警戒心もやわらぐ。すると,それに応じるように光はもとの明るさを取り戻した。「俺たちが見張られてるのは変わらないようだな」

その星々の群れはポッドたちを追いかけるように,その周囲を照らしだしている。「そろそろこのくだらん遊びも終わってほしいところだが」そう言ってザイモンが首を回す。

「先方もそう思っておるようじゃの」ヌウが杖で差した。光のさす穴が見える。大きく伸びをしたポッドが先頭に立ち,そのトンネルをくぐった。

大地の巣を初めて訪れたときのようだ。すりばち状の崖に道が螺旋を描いて下に続く。だがその中央にはこれまでにない塔のような建物が見えた。「あれが聖王の家かな」エーコが答えようのない質問をする。「たぶん」とポッドが答え,歩き出そうとする。

「飛び降りれば早いんじゃないか」そう言ってザイモンが腕の糸を見せる。「いや,道なりに進もう」ポッドが地面を指さす。複雑な模様の紋章がびっしりと書かれている。興味深そうにヌウが目をこらした。「歩く合言葉じゃな」

「合言葉?」「手順通りに進まないと敵だと思われるってこと」ザイモンの問いにポッドが答えた。

「なんて書いてあるんだ」「ふむ,こんな文字は見たことないのう」「使えん年寄りだな」ザイモンの暴言にヌウは思わず顔をしかめる。

「ちょっと,そんな言い方やめなよ」エーコが仲裁する。「それよりポッド,ここに来たことあるの?」そう言われたポッドはエーコと目を合わせる。エーコは言葉を続けるのを一瞬ためらったが,「いや,疑ってるわけじゃなくてさ,前から知ってるような話し方だから」としどろもどろに言った。

「確かにな」ザイモンも同意する。これまで様々な罠が仕掛けられていた。だがポッドの機転で全て回避できているのは奇妙なことだ。

ポッドは首を横に振り,否定した。「いつもの直感,ってやつか?」ザイモンの問いに今度はうなずく。「ここに来たとき,あの人たちがぼくらを敵がどうかずっと見ていたように思ったんだ。だから彼らの規則を守っているうちは敵対することもないだろうな,と」

楔龍の加護か,ポッドの直感は並外れている。いや,その優れた力が楔龍に認められたというべきか。まるで全てを見通したかのような判断をするせいで,かつてはいわれのない罪をなすりつけられることもあった。だが今は聖騎士としてその能力を遺憾なく発揮している。

「じゃあこいつが門をぶち壊したのは規則違反だな」ザイモンがエーコを見やるものの,きつい目で返される。ポッドはうなずいた。「うん,だからもう失敗はできない。たぶん」「それじゃあ早く聖王様とやらに会って帰ろうぜ。もう命令に従うのはうんざりだからな」





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