013

「寵姫様に質問がございます」エッジはどこにいるともしれぬ寵姫にたずねた。「なぜきゃつらが攻めてくるのか,とな?」寵姫はエッジの思惑を見透かしたように言う。エッジは恐縮した。「寵姫様は,本当に,全てお見通しなのですね…」この時期,よそから来た者ならば誰もが思う興味本位の質問,それを軽々しく口にしてしまったことに,内心で冷や汗をかいた。

「すべて見えておるぞ,ヌシの思っておることも,すべてな」そう言って寵姫は笑った。だがエッジの背筋が凍りつく。「すべて,ですか」「すべてじゃ。ヌシが余をどんな目で見ておるのかもな」

空の上にあるのとは別の理由で身体が震える。謁見の間で会ったときからの,様々な言葉,想像が頭をよぎる。それは抑えようとして留まるものではない。寵姫がくすくすと笑うのが聞こえる。「夢は心の檻を放つといったじゃろう」

「も,申し訳…ありません…」なんとかエッジは声を絞りだし,その不届きな思いを詫びた。

そのうろたえる様子があまりにおかしいのか,寵姫は大きな笑い声を出した。「はっはっは。本当にからかい甲斐のあるやつじゃのう。嘘にきまっておろうが」「へ?」この短い時間で何度めかの,間抜けな返事をしてしまう。「ヌシが思うことなど,その内をのぞきこむまでもない,顔にすべて表れておるわ」

寵姫のその言葉をエッジは何度も反芻した。「じゃあ,私の心は読めていないと,さっきのは嘘であると」疑いの気持ちを含めて問う。「さあ,どうじゃろうな」寵姫のいたずらっぽい顔が浮かんでくるようだ。「余をそんなよこしまな気持ちで見ていたとはのう,陛下に知れたら死罪では済まぬだろうな」

くっ。あまりに恥ずかしさに,エッジは手をたたきつけた。と,身体を支えた感覚が抜け,海へとぐんぐん近づいていった。



「!」額に汗を浮かべ,エッジが目を開く。その前にあるのは満開の空色の花。

「生き返った気分はどうじゃ」先とは違う,耳に直接届く寵姫の声。あたりを見回すと,寵姫の寝室に立っていた。幻だったのか。夢のなかでさらに夢を見ていたのか,うつろな気分だった。

何を言えばいいのかわからず,黙ったままでいると,「宴のなかで,ヌシとこうして語り合えればよかったのじゃがな」と寵姫がひとりごとのように言った。わずかにさびしげな様子がただよう。エッジのなかで強烈な罪悪感と,同時に勇気がわきあがった。

「私が離宮を守ります」エッジがそう言い放つ。その決意の強さは,初めて口にしたときとなんら変わるところはない。これまでとうってかわった真剣な表情に,寵姫の目が大きく開かれる。「ですから,そのあと,また私とお話させていただけませんか」

寵姫はやや困った笑顔を浮かべる。どう返事すればよいのか迷っているように思えた。やや時間があって「ならば守ってみせよ」と言うと,両手でエッジの身体を思いきり押した。エッジがその胸に手の平を感じた瞬間,視界が暗転する。そしてつかみどころのない暗黒をどこまでも落ちていった。





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