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声のしたほうを皆が振り向く。そこには髪にいたるまで全身びしょぬれの人物が立っていた。しかも共についてきた神官があわてて衣で隠そうとしている。それをはねのけるようにして言葉を続けた。
「雷神を宮に呼んだのは余じゃ。何の問題があろう」
瑞々しい肌にエッジは赤面したまま硬直する。「あれが姫とかいうやつか?」視線を向けずにイヴンがたずねた。「そう,だと思います」答えながらエッジもわが目をうたがっている。「だと思うって,どういうことだよ」「寵姫様がこのように私たちに姿を現すことがなかったので」「このように?」
「話があるなら余に申せ」いやいやながらも衣をまとった相手はイヴンに直接話しかけた。「あんたが姫ってやつか」その無礼な言い方に眉が少し上がる。「いかにも。余が陛下の后じゃ。ヌシが雷神か」「そうだ。ここを滅ぼされたくなかったら俺とともに帝都へ来い」
「話に聞いていた以上の暴れん坊のようじゃな。文もなしに現れて,余を脅すとは大したものよ。それにヌシの言うとおりにして宮が守られる保証もあるまい?」寵姫はあざけるように口の端を上げて言った。自分の倍ほどもある背丈の人物にも全く怯えることなく向かいあっている。「じゃあ今すぐここを消してもいいんだが」そう言ってイヴンは右手に光を集める。
するとその腕を誰かが掴んだ。エッジだった。「そうなれば私があなたを許しませんよ」その態度に苛だったイヴンは殺気に満ちた目でにらみつける。だがエッジはイヴンを見返してわずかに腕に力をこめた。刹那,イヴンの脳裏にバラバラになる自身の姿が浮かんだ。
「わかったよ」と答え,イヴンは手の光を拡散させる。場に安堵の空気がもれた。
「けどな,その姫さんには俺と都まで来てもらうぜ」そう言うイヴンと寵姫の目が合う。荒い気性に似合わぬ曇りのない瞳に,寵姫は何かを察したようだった。
「ふむ,よかろう」
姫様。皆が声をあげる。それを気にしないかのように,寵姫はさらに突飛なことを口にした。「ここにおる配達人に余を運んでもらう。それでよいな?」
「へ?」急に自分が話題に出され,エッジは素っ頓狂な声を出してパオラと顔を見合わせる。「俺はかまわん」イヴンは寵姫の提案に腕組みをして了承した。
「あの,どういうことなんですか」説明を求めるエッジに寵姫は笑顔で答えた。「久しぶりに陛下の顔が見たくなった」
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