034

渦を巻くように続く道の果て。おそらく大地の巣の最深部であろう場所にたどりついた。ひんやりとした空気が四人を緊張させる。塔の入口はぽっかりと穴をあけ,無機質な様子で佇んでいる。

「ぼくが先に入るよ」そう言ってポッドが一歩足をふみだした。「気をつけて」エーコが無意識にその言葉を発し,自分でも驚いたように唇に指を触れている。皆,なにかの気配を痛いほどに感じているのだ。ポッドはエーコの態度にふっと笑みを浮かべ,暗闇に手を伸ばした。

地鳴りのような轟音が響いた。全身の毛が逆立つように強張り,思わず四人が身構える。まばゆい光に視界が塞がれた。何かのひきずるような音,そしてうなり声。

「待って!」ポッドが不意に叫んだ。その腕に触れるか触れまいかの距離で,エーコの剣が輝きを放っている。わずかでも遅れていれば,ポッドの腕,いや,その腕に巻きついた木の根が断ち切られているところだった。

『肉の感触など久しいものだ』

光が収束していくのか,目が慣れていくのか定かではない。次第に視界の中央に影ができあがっていく。

部屋全体に根が張りめぐらされ,荒々しくうねっている。そのなかに,風に弱々しくなびくような,それでいて若々しい細い茎があり,ほのかに光る綿毛のような玉がひとつ,静かに明滅している。

「あれが聖王か」ザイモンが誰に聞くともなく言う。エーコが剣をしまうのにあわせて,ポッドが話しはじめた。

「聖王殿。我ら聖騎士の団は秩序の一柱である楔龍の使いでここに来ている。非礼は慎んでいただきたい」

『非礼だと?わが腹を気ままに踏み荒らしておきながらどの口が申すか』そうして根がポッドの手に食い込む。エーコが再び剣を構えようとするのをポッドが目で制す。

「帝国の侵攻という火急の事態にあって,古来よりの約定を違え,我らへの協力を拒みつづけることこそ非礼と呼ばずして何と呼ぶのか」

ポッドの啖呵が部屋に響き,余韻が残る。互いにしばらく沈黙が続いた。やがてポッドの腕からするすると根が離れていく。ようやく解放されたポッドは手のしびれを払うように軽く振る。それを守るようにエーコが前に立った。「ありがとう」と小さく呟いたポッドに,エーコは少し照れたように見えた。





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