026

幾隻もの船に見張られるようにしながら,寵姫とエッジたちの乗る船は帝都へ進んでいる。エッジの膝にはパオラが座り,表情をさとられないようにしながら,寵姫を訝しむ目を向ける。だが勘の鋭い寵姫にパオラの様子はすぐに伝わった。

「なんじゃ,余の顔に何かついておるか」からかうように寵姫はパオラに言う。「…ねえ,エッジ」パオラはその問いに答えずにエッジにたずねる。「この人,本当に寵姫様なの?」

「どういうこと?」先ほどからずっとパオラが不審そうな顔をしていたのはこのためだったのか。ようやくエッジは理解した。とはいえ,エッジ自身も,いまだに目の前の人物が寵姫本人であるという確信がもてずにいる。声も姿も,夢で見たときと同じ。だが大樹であるはずの寵姫が,どうして夢で見たときのまま,自分たちと向きあえているのだろうか。

「私の知ってる寵姫様とは全然違う」パオラは寵姫とエッジの顔を見比べながら言う。「違うって,なにが」「うーん…」

「余が陛下の后らしくないと,そういうことじゃな」その答えにパオラはあわてる。「そ,そうじゃないんです。けど…」口をまごつかせるパオラの様子に寵姫はくすくすと笑う。「わかっておる。余が醜いのであろう?」

エッジにもわかるほどパオラの胸が高鳴った。「ち,ちがいます!」口では否定してもその表情が図星であることを物語る。「ごめんなさい寵姫様,わたし…」

「気にせずともよい。皆がそう思っておることは余も知っておる。それに」そう言って寵姫はエッジの方を見た。「こんな余を好くような物好きなど,ここにおる配達人だけじゃからな」寵姫の矢がエッジに飛んできた。突然のことにうろたえ,パオラがそこにきつい目を向ける。「エッジ,どういうこと。説明してよ」

エッジの顔が真っ赤になり,沈黙する。「この者がな,余を守ると申したのじゃ」そうして思い出に身を馳せるような寵姫の態度に,パオラがムッとしてエッジの頬をつねる。「エッジ,そんなこと言ったの」

エッジは目を伏せたまま黙りこんでいたが,やがて観念したように「言いました」と聞こえないほどの小声で言った。その様子に寵姫が声をあげて笑う。「ほんとうにからかい甲斐のあるやつじゃのう」

ひとしきり笑ったあと,寵姫はふっと息をもらした。「余はうれしかったぞ。そう思われたのは久し振りじゃからな」エッジとパオラがハッとして寵姫を見る。「久し振り?」「そうじゃ。見てのとおり,余は醜い。じゃがな,陛下はこんな余でも,命あるものと慈しまれ,祝福あそばされた。あれは,ほんとうに,うれしかった」

心なしか寵姫の瞳が潤んだように見えた。「あ,あの」その様子にたまらずエッジが口を開いた。「私,寵姫様を守ります。本当です」そしてすぐさまパオラに視線を落とす。「パオラも。絶対守るから」そう言って優しく抱きしめた。「わたしも」とパオラもエッジの背中に手を回し,力をこめてその思いにこたえた。





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