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帝都で最も高い場所にそびえる皇宮。その地下には,帝国の守護者,暴竜・ハーマーン=ジェリドが住んでいる。その日の朝,寝床に伝令がやってきた。その紋章は西の港からのものだ。いかように離宮をたいらげたのか報告を待っていると,予想だにしない返事がかえってきた。あまりの憤りに,鼻から吹き出した炎で伝令を焼きつくしてしまう。

『櫂主 (かいしゅ) を呼べ!』帝都全土に響きわたるほどの大声で怒鳴った。



帝国の海を統べる櫂主セムが部下を引き連れてやってくる。寝床は暴竜の熱気でいまにも沸騰しそうなほど暑い。櫂主は額からこぼれる汗をぬぐいながら暴竜の話を聞いた。そうして櫂主は驚く。あの大船団が敗れたなど初耳だったからだ。暴竜は訝しみ,その大きな目をぎょろりと回して櫂主の顔をのぞきこむ。だが先の言葉に偽りはないことが感じられ,ようやく翼をはたいて熱気を払った。その際,部下の何人かが突如吹き荒れた嵐に巻き込まれ,壁のシミとなった。

「向こうに抗う術などないはずだが」櫂主は腕を組んで暴竜に言った。そう。この日のために,これまで離宮には一切の武装を許さなかったのだ。やつらが持っている武器など,せいぜい魚をさばくための包丁程度だろう。

『次に攻め入るのはいつか』「わからん。お前のせいで被害も把握できなかったのだ」

暴竜が顔を近づけて怒鳴った。『貴様が落とせなかったからだろう!』目は真っ赤に血走り,今にも櫂主を焼きつくさんばかりに荒い鼻息をあげている。だが櫂主は全くひるまない。

「八つ当たりして貴重な情報を奪ったのはお前だ。部下の貴重な命もな。自分はこれから離宮再上陸のための会議を行う。邪魔しないでいただきたい」

ドン!立ち去ろうとする櫂主の周囲に火柱があがった。暴竜が櫂主に向かって手をたたきつけたのだ。櫂主は丸太のような指の隙間に辛うじて立っているものの,服の端が焼けこげている。それでも平然と振り返って暴竜を見上げ,汗をぬぐう。

『今から会議では間に合わぬ。すぐに出撃させるのだ』「状況も把握できないうちは無理だ」『そんな言い訳はいらぬ!』激昂した雄叫びが寝床の壁をビリビリと震わせた。天井からパラパラと粉が落ちてくる。

『離宮の力なくして火の血族には勝てぬ。今すぐゆけ』

櫂主はあきれたような顔で怒りに震える暴竜の顔を見ていたが,やがて「それなら」と口を開いた。

「神の力を借りるほかはないな」





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