003
仮に石ころのひとつでもアルジの頭に命中し,そこらじゅうに脳みそをぶちまけてしまえばこの物語も終わってくれるのだが,実際はそううまくいかない。幸いなことに,出だしの速かったアルジはケライとともに生き延びることができた。だがケライを抱き上げた際に不適切な場所を触っていたためか,下ろした途端に大きなビンタをくらった。命の恩人であることとこれは別である,という無言の意思表示である。だがアルジの身体についた泥を手で払ってくれたので,「ケライの髪も洗わないとね」とアルジはお礼だかなんだかよくわからないことを言った。
土ぼこりが晴れると,何が起きたのかようやく把握できた。獣車があったはずのところは地面が抉られ,すり鉢状の巨大なクレーターになっている。運転手らがどうなったのかは言うまでもない。
あの流星がこの災害をひきおこした元凶であることは明らかだったが,ではあの紫の流星は何なのか。謎の新兵器か。と,アルジは窪地の中央で光る何かを捉えた。翼のある針のようなものが突き立てられている。あれが流星の正体か。と思うと,それがモゾモゾとわずかにうごめくのがわかった。
生きているのか。アルジはケライにすぐここを離れるよう促した。あんな凶悪な攻撃をするバケモノにこちらが元気なのが知れたら大変なことになる。大変なことというのは死ぬということと同義であるが,そんな自明のことを説明しなければならないほどアルジが慌てていたのだ,ということだけ理解していただきたい。
周囲はところどころに雪のまじる見晴らしのよい平地である。あいつが高高度から荷車をとらえるほどの視力の持ち主だとして,こちらの命を狙っているとしたら,次の一撃で確実に葬られることだろう。とはいえ何もせずにはいられず,二人は少しでもクレーターから離れることを心がけた。
幸運は続くものだ。前方の雪山から,光の玉が尾を引きながら空へ登ってゆくのが見えた。新たな敵ではなく,調査隊の信号弾である。その信号に応じる手段を持ち合わせていないが,そこへ向かえば生きている人間に会える可能性は高い。とはいえ高高度から突進をしかけてくるバケモノがいるような状況だから,信号弾を偽装したモンスターである可能性もゼロではないが,まあそんな特異な生物がいるようなら何をしようが助かる道はないだろう。
というわけで二人は雪山へ向かった。
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