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未知の探索は期待と不安が入りまじるものである。
針山のキャンプが完成する頃,アルジは新たな腕の感触を確かめていた。肘から先のないアルジにとって,何でも持てる腕,というわけにはいかないが,ミミが時間をかけただけの出来栄えだった。
アルジが以前,鉄球を武器にしたことをアイデアとし,片手の先が返しのついた鉄球となっている。腕の内部には鎖が仕込まれており,腕を交差させると,両腕のスイッチがかみあって長さを調節できる。そしてもう片手の先は爪のついたフックとなっており,ひっかけたり,ひき裂いたりすることが可能である。こちらにも鎖がついており,先とは腕の上下を逆にして交差させれば,こちらも自由に長さ調節が可能だ。
まあ長々と解説したが,簡単にいえばアルジの腕に伸縮自在の強力が武器が備わったといっていい。これに伴って義足の噴射機構も改良され,複数回の使用が可能になった。もはや裂掌獣に対しても互角以上に立ち回れるだろう。
こうした戦闘能力をアルジが求めていた理由はいくつかある。キセイらを筆頭に里の戦力が底上げされるなか追いていかれないようにするため。自力でも生きのびられるようにするため。だが,最も大きなものは,アルジを見舞った際にマッパが言ったことだろう。
アルジが狡舞鳥に受けた傷を癒したら,マッパは針山の先に連れていってくれると言った。そのことをアルジは聞いていないが,ケライが覚えており,アルジに説明してしまったのである。それからアルジは狂ったように鍛錬にあけくれ,治療で衰えた体力をみるみるうちに取り戻していった。
時を同じくして,ボッチ団も動き出していた。目標は森の東から北に抜けるルートの発見である。マッパによれば,森の東には川が流れているとのことだが,そこから先は未踏の地である。コッコの加入や,この地に生息するモンスターから得られた技術によってボッチ団の実力も上がっていた。そこで,アルジらよりも先に調査に出発したのである。あの忌まわしい惨劇から時を経て,ようやくボッチ団が再始動したのだ。
ボッチ団の四人がいなくなり,静かになったラウンジでアルジが遅めの朝食を取っていると,今度は荷物を背負ったシッショとクビワに出くわした。狡舞鳥の脅威も去ったので,湿地から西に抜けるルートを開拓するために出かけるという。雷掌獣の別個体がいるかもしれないのだが。
それに,問題となるのは二台しかない獣車である。一台はボッチ団が持っていってしまった。シッショらが使ってしまえば自分達が動けなくなる。ただしその点は問題なかった。湿原のキャンプまではアルジらも同じルートを辿る。そこで先にシッショ達が獣車で向かい,アルジらはジブーやビュンを利用して来てほしいとのことだった。それだけ言うと,アルジの答えも聞かず,二人はラウンジを出て行ってしまった。
どんよりした雰囲気の静かな里はこれまで何度か見てきたが,人のいない静寂はそれとは違った趣がある。落ち着かないような,わくわくするような,不思議な気持ちでアルジは残りの時間を過ごすことになった。
その晩,マッパがケライに「行ってくる」とだけ残し里を出発した。アルジはオヤブンに明日出発することを報告し,眠りについた。
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