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「やはり竜人族は無能ばかりだな!」

オヤブンの私室で,帰還したマッパは口をきわめて非難していた。罵詈雑言の嵐といってもいい。

初めてアルジがシッショに会ったとき,調査隊の人数が八人と言ったのは正しい。マッパは厳密には調査隊に含まれていないからだ。紫針竜ブレミオンによって里と南との連絡は断たれた。いくらマッパとはいえ単独で紫針竜に挑んでも勝ち目はない。ゆえに,マッパは調査隊の地位から離れ,単独で北の大陸を調査するかわりに,他のメンバーで紫針竜への対策をたてる。そういう計画だった。

だがオヤブンとしては未熟な調査隊では紫針竜の生態を調査することすら困難であると考え,ある程度安全な地域の調査を行わせ,経験を積んでから紫針竜へ方針を変える予定だった。その考え自体は悪くない。問題は,この大陸に生息する生物がオヤブンや調査隊の予想をはるかにこえる危険なものばかりだったということである。

その結果,オヤブンとショムをのぞき,現場で調査を担当していたメンバーの半数が重篤な怪我を負い,残りの者もほとんどが深い心の傷を負うことになってしまった。いかなる理由はあれ,オヤブンが無能といわれてもやむを得ない壊滅的な状況だった。

「だいたいなんで貴様がこんなところでふんぞりかえっているんだ!?テッペンに立つ者だったら先頭に立って身体を張るもんじゃないのか!」

「そもそもなんで長距離信号弾の設備が破損していることを俺たちに隠していたんだ!南との連絡がとれないのをなぜ隠した!部下との情報共有は基本だろうが!」

マッパの言うことは正論である。だがマッパは自分が超人的な能力をもつことを自覚できていない。そのため,自分には厳しいが,他者にも厳しくあたるため,人員の限られた組織を破壊しかねない危険性ももっていた。そこでオヤブンはマッパが調査隊と距離をおき,同時に大陸の状況も得ることができるよう,現在の体制にしたのだ。実際,単独で行動するマッパがあちこちに拠点を立ててくれるおかげで,それらが出城として機能するうえ,大陸の地理に関する情報がすさまじい勢いで蓄積している。

それに,自分達が南から隔絶され,その原因が極めて強力な攻撃手段をもつモンスターだと判明すれば,未熟な調査隊員に不要な焦りや不安を生み,士気を下げることになる。オヤブンの判断は妥当だといえるのではないか。

つくづく不運なのは,北の大陸が常識でははかりしれない過酷な環境だったということだろう。とはいえ,それで責任を免れるわけではない。

さんざん悪態をつき,すっきりしたのかマッパはドアを叩きつけるように部屋を出た。そのドアをオヤブンは憎々しげに眺めるのだった。

ラウンジに降りてきたマッパは,頭を肘で掻きながら書類をながめる人物と目が会った。奇抜な格好に相手は思わず目が点になる。

「はじめまして。後発隊のアルジです」アルジは強かった。喉まで出かかった疑問をこらえ,自己紹介をしたのだ。「マッパだ。大陸で遊撃任務をしている」それを聞いてアルジは立ち上がり,大きく礼をした。「ケライを助けていただき,ありがとうございました」

「礼を言う暇があるんなら腕でも生やしてみるんだな」怒りに突進したくなる気持ちをグッとこらえ,アルジは返事をする。「後悔しても腕は生えてこないので,今後の対策を考えていました」

ほう,とマッパは感心する。「座れ。言ってみろ。聞いてやる」

それからアルジはこの壊滅的な状況を立て直すための案を提示した。それは一言でいえば,マッパとアルジの二人で,ケライを串刺しにした木の謎を暴き,ボッチ団を壊滅させた獣を葬るというものだった。突飛な発想にマッパは鼻で笑う。「どうやるっていうんだ?」

だが,獣とわたりあったアルジの話を聞き,具体的な戦略を話すなかで,マッパの目が次第に真剣なものとなる。「じゃあお前ならあの人を食う木の生態を解明できるっていうんだな?」「はい」「燃える拳を持つバケモノを倒せるっていうんだな?」「はい,私があの『裂掌獣ザエル』を倒します」

裂掌獣ザエル。謎の獣から,調査隊の対象へと変わった瞬間だった。



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