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ボッチに背負われたシンキが明かりで通路を照らすなか,四人が出口を目指す。シンキはボッチのボロボロの手に負担をかけないよう身体を浮かせてはいるが,足に力が入らずずり下がり,そのたびにボッチは顔をしかめる。

「ボッチ,ごめんね」「気にするな」そんなやりとりが何度行われただろうか。ふいに,肉と野菜を煮込むような,空腹を刺激するよい香りがただよってくる。「止まれ」そう言ってマッパが立ち止まった。

「敵か」ボッチが問う。「わからん」耳をすませると,何か話し声のようなものも聞こえてくる。


「誰だ!」


マッパが叫んだ。声がやむ。なんと大胆な。そんな命知らずの行動にボッチがうろたえる。

しばらくして,「マッパさん?」と呼ぶ聞き慣れた声が返ってきた。

「ミミか?」マッパはそう言って,後ろに立つボッチたちに,行こう,と促す。


里に帰ってきたような気分だった。マッパたちが設営したテントで,ミミとキセイ,ケライが四人の帰りを待っていたのだ。

「みんな,どうやって」そう言いながらボッチがシンキを下ろす。と,緊張の糸が切れたのか,シンキはミミに抱きついて人目もはばからず声をあげて泣きはじめた。おかえりなさい,とミミは優しく言い,シンキの薄い髪をなでる。かたやケライはマッパの背中からアルジを奪い取るようにして,血で服が汚れるのも構わず抱きしめた。身体の感覚が急に変わってアルジはわずかに身体をこわばらせたものの,ずっと求めていた匂い,感触に確信を抱き,満足そうな顔を浮かべた。そんな二人の様子に,「具合があまり良くないから,無理させるなよ」とマッパはたしなめる。

「危ないんですか」とミミがシンキの肩越しに尋ねる。「騒音で頭をやられたらしくてな。耳が遠い。目もあまり見えていないかもしれない」そう言ってマッパは,アルジの容態を真剣に聞くケライに目を向けて続けた。「ここにショムがいればよかったんだが」

「すぐに里,あ,本部に帰りましょう。外に戻るための滑車があります」ミミはキセイの方を向く。「キセイさん,お願いできますか」キセイは顔を横に振って鍋を指差した。湯気のあがるスープができあがるのをずっと待っていたのだ。

「まあ,とりあえず,腹ごなしだな」マッパはようやく腰かけて,鍋の横にあったお椀を取った。


「じゃあ,ケライが無茶を言ってお前たちがここに来たわけか」「そうなんです」ボッチの質問にミミが答える。やはり温かい鍋を囲んでいると,自然と話がはずむ。手の使えないボッチは,やや恥ずかしそうにしながらもシンキに食べさせてもらう。一方のアルジも,食欲だけは旺盛なのか,ケライが噛んで軟らかくしたものを口に運ぶたび,すぐに飲みこんでは次の一口を待っている。その様子はさながら赤子のようだった。

大穴の上ではビュンが円を描きながら舞い,底へ続く滑車をワンワ,ゴリ,そしてジブーが守っている。そしてトンネルの入口はコッコが塞ぎ,警戒を怠らない。キセイがいなければこれほど安全にマッパたちの帰還を待つことはできなかったのだ。その手柄として鍋を所望するのも当然だろう。とはいえアルジの容態を考えると長居はできない。マッパは皆が食べるそばで早々にテントをたたみはじめていた。

「ところで」マッパは何か気になったのか,ミミを見て聞いた。「その鍋の肉は何なんだ?」

ボッチもうなずく。肉団子を野菜の葉で巻いた具材が絶品で,舌が躍った。普段口にしている糧食の味気なさと比較すると,痛い思いをした甲斐があった,と錯覚してしまうほどだった。だが,複雑な事情があるのか,ミミが一瞬ためらう。

するとケライは,そんなことを気にしていないのか,「外の木の実です」とすんなり答えた。脈打つ木を思い出し,ボッチの顔が青くなった。何も知らないアルジは口を開けて次の一口を待っていた。



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