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力は命を奪うだけでなく,命を救うことにも使うことができる。仮にシッショの言ったように,竜人や人間がその力を破壊に向けるほうが得意であっても,助けること,救うことに使えないとはかぎらない。
マシュマロのような包み込まれる感触をアルジは全身に感じた。地獄にしては心地良い歓迎である。いや,地獄ではない。それは雪面のような,真っ白なクッションであった。
身体が傾くような感覚と,わずかな揺れ,そして空を覆う顔と,強くしめつけられる感触,ほのかな香り。
「ケライ」
クビワの速度を見誤っていたのはアルジのほうである。シッショはクビワの全力を知っている。それを伝えられたミミが,落下地点に膜を張っていたのだ。全てをはね返す白い布は,地獄へ落ちようとするアルジをも現世にはね返した。来るにはまだ早い。そう示すかのように。
紫針竜の作ったすり鉢状の窪み,その中央にはしおれた白い布と紫色の残骸があった。ガラスのような破片には黄色くべたついたものがこびりつき,土とまざってあたり一面にまきちらされている。それとは対照的に,薄く透明で花びらのようなもの,おそらく翼の名残であろうそれは,持ち主を失ってなおはばたくように,風に吹かれてはらはらと舞っていた。
遠くからキセイの乗る獣車がやってくる。そこから身を乗り出すように手を振るボッチたち。アルジはケライに抱かれながら,鈍色に輝く手をあげて応えた。
– オブリビオン・リポート おわり –
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