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この章でもストーリーに進展はない。時間を進めたい読者は飛ばしてほしい。

翌朝,ミミとともに起きて朝食をとるアルジ。不思議と身体が軽くなっているように感じた。いいな,この感じ。そんな気持ちになるのはいつぶりだろうか。

ただ,自分はこれからもこうして些細なことでいじけて,そのたびに誰かの助けがなくては立ち直れないのだろうか。そんな嫌悪感を抱いた。

「おい,アルジ。昨日は悪かったな」

ガラガラと音を立てながら,荷台を押してボッチがやってきた。ボッチは規則正しく,早起きだ。シンキに何か起きないかぎり,大したことでは心を乱されることもない。多少口は悪いが面倒見もたぶん良い。アルジとは対照的である。

「いえ,私こそ言葉が足りなくて,すみませんでした。ミミさんに怒られたとか」「そうそう,ミミのやついきなり怒りだしてさ,すごかったぜ」そう言ってボッチは意地悪そうな顔をすると,大げさに当時の再現を始めた。

「アルジさんがッ,ようやくッ,みんなに心を開くようになってきたのにッ,どうしてそれをッ,台無しにするようなことをッ,平気でするんですかッ!無神経すぎますッ!」「ちょっと,やめてください」ミミが袖を引っ張ろうとするのをかわし,なおも熱演する。「アルジさんがどれだけ傷ついたかッ,わかってるんですかッ?もしこれでまたッ,みんなを避けるようになってッ,一人きりになったりッ,脱走するようなことになったらッ,私ッ,ボッチさんを絶対に許しませんからッ!」そう言って片手で顔を覆い,内股で荷台を引きながらラウンジを駆け出て行った。「私そんな走り方してません!」ミミが赤面しながら大声でボッチに叫んだ。

「はぁー…」大きなため息をついて,ミミが席に座り直す。と,アルジが真顔で硬直している。ミミがこちらに注意を向けたのに気づき,目をそらす。

「あ,あの,アルジさん,気にしなくていいですから。ねっ。ほら,早く食べて仕事にとりかかりましょ」

気まずい沈黙だった。アルジはどう返事すればいいかわからなかった。何を言っても間違いのような。

他人に気を遣わせないようにするとかえって気を遣わせてしまう。かといって気配りを忘れれば相手に迷惑をかけてしまう。どうすればいいのか。

簡単である。他人に気を遣わせないよう行動し,その通りに他人も気を遣わずに済めばよいのだ。何を言っているのかわからないだろう。それで正しい。ふつうならば,この二つは一致しているものだからだ。そして,ふつうならば,さほど考えなくてもできる。ただ,アルジの考えや行動が場違いでずれているがゆえに,この二つもずれたものになってしまっている。

「さっきボッチさんの言っていた様子だと,ミミさんが私を部屋に受け入れてくれたのは,とっさの考えだったんですか」

アルジはふと思ったことを聞いた。

「…はい。嘘ついてごめんなさい。迷惑でしたか」ミミの返事にはやや時間があった。「いいえ。うれしかったです。本当に,うれしかった,です」「え?」「あんなに安心して眠れたのはどれくらい久し振りだろうか。そう思いました」「アルジさん…」

「ミミさん」アルジは顔を上げてミミを見つめた。「はいっ」「これからも,ミミさんと寝ていいですか」

ミミは一瞬赤面し,あわてて手で顔を仰ぐ。「え,ええ!もちろんですよ!」



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