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三人の帰った里は騒然としていた。あのときを思い出すようだ。いや,あのときは静まりかえっていた。皆傷ついて。怒り狂うマッパがいなければ,組織として終わっていたかもしれない。

ラウンジにはミミとショムをのぞく全員が集合し,各々が席に着いていた。オヤブンもそこにいた。「これはお揃いで,どういうことだ」

シンキが言いづらそうに答える。「クビワさんの容態が,あまり良くないみたいなの」

それを聞いたシッショの足が崩れそうになる。「シッショさん」あわててアルジが支えるが,力がない。

「今,ショムさんとミミさんが必死に看病しているんだけど,どうなるか,ちょっと」「外傷はほとんどなかったはずだが」「うん,でも…」言葉を濁すシンキの代わりに,ボッチが口を開いた。「意識が戻らない。原因は不明だが,頭に重い怪我を負ったのかもしれない。仮に命は取り留めても,いや,もしくは」「ボッチ。だめだよそんなこと言っちゃ」「すまん」

「シッショ,そろそろいいだろう。何があったか答えろ」マッパが無言でうなだれたままのシッショに言う。「マッパさんやめましょう。今はクビワさんの回復を祈ることのほうが」そんなシンキの言葉を制すように,マッパはシッショの胸ぐらを持ちあげた。ケライをのぞく全員が立ち上がり,止めに入ろうとする。

「俺は何時間も待った。ここでただボンヤリしてるお前らと違ってな。しかも今後の調査もあきらめてわざわざ帰ってきてやったんだ。クビワの助けになる情報が得られると願ってな。だから俺は聞く権利があり,シッショは答える義務がある。答えろシッショ,何があった。そのザエルとかいうやつはクビワに何をしたんだ」

ザエル。その言葉にボッチらがざわつく。

しばしの静寂があった。皆がシッショの言葉を待っていた。視線をそらし,なおも無言でいるシッショだったが,やがて観念したように口を開いた。

「言ってもみんな笑うだけだ。冗談だろって。だから言えない」

だが黙って聞いていたオヤブンが「シッショ君。何があったか教えてくれないか」と問う。なおも躊躇していたシッショだったが,「放してくれ」とマッパの両手を払うと,視線を下に落としたまま,呟くように言った。

「あいつは,時間を止めるんだ」



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