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シッショは呆然としたまま,真っ暗な洞窟で,マッパのあとをついていく。はじめ何を言っているのかわからなかった。シッショはクビワの兄の手がかりについて聞きたかっただけだ。だがそれは,知っていることを話せ,と言っているようにマッパには聞こえた。そう思われても仕方ない。書庫で資料を見つけたなど,過去を探るような質問をしたのだから。そしてシッショの追及にうんざりしたマッパは,この地で何を知り,そして何を見てきたのかを,先の一言で表した。それを聞いたシッショは棒立ちになった。これで満足か。そう言ってマッパはまた歩き出したのだった。
「シッショ?」足の進まないシッショをクビワが心配する。そのたびにシッショは思い出したようにとぼとぼと歩いていく。
どういうこと。その一言が出てこなかった。自分たちがこれまで屍の上を駆け回っていたという事実に,シッショの頭は真っ白になった。シッショは本物の雪を知らない。シッショだけじゃない。里の隊員で知っているのは,おそらく博学なケライとショムしかいない。そしてショムは里を出ない。ゆえにこの地の雪が異質なものであるとこれまで知られなかったのだろう。
人の残滓を放っておくというのでもなく,埋葬するのでもなく,山のように積むという行為に,シッショは言い知れぬ狂気を感じた。足が震えるのをクビワにさとられないよう,なんとかこらえた。なぜマッパはすぐに里を出ていき,調査をするのか。それは単に南へ帰還する手段を見つけるためだけではない。一秒でもその異常な世界から離れていたかったのだ。シッショだってそうだ。このことを知ってしまった以上,もはや里に帰りたくはない。
クビワは何を気にすることもなく,空腹を訴える。だがマッパとシッショは無言だった。
ふいに,ガチャン,という金属音が響き,そこから光がもれてきた。これまで暗闇に慣らされていたこともあって,目に突き刺すような痛みがはしる。
マッパを筆頭に三人は光の中へ入る。壁いっぱいに張られた数々の設計図と,生物のスケッチ。乱雑に積まれた資料。それらを天から差し込む光が照らし出していた。
研究室だ。おそらく,観測省の。
埃をはらって,マッパが本をめくりはじめる。「紫針竜を倒す手がかりがあるはずだ。探せ」
マッパの言葉に,クビワの腹の虫が景気良く答える。これだけ緊迫した状況なのに。
シッショは思わず笑ってしまった。マッパの険しい顔も心なしか穏やかになったようだった。「黒い扉の奥が倉庫になっている。食える物があれば好きに食え」
それを聞いたクビワは口の両端を上げ,ニンマリとした顔でシッショの背中を押し,急かした。
扉の奥が倉庫,というのはマッパの言ったとおりだった。巨大な空間がいくつもの枠で仕切られ,何が入っているのかもわからないような箱,機械,雑多なものがうずたかく積まれている。明かりがなければどこに何があるのか見当もつかない。食える物があれば,とマッパが言ったのが思い出された。あるかもしれないが,はたしてどこにあるのか。
食べ物で満たされた里の食料庫。それを期待していたクビワが肩を落とす。その腰をシッショが叩き,励ましてから二人で食べられる物を探しはじめた。クビワほどではないが,シッショだって腹は減っている。空腹では資料の検索もままならない。
すぐれた保存技術で密閉されているのか,もしくは存在しないのか,食べ物らしきものの匂いはクビワの嗅覚をもってしても容易に見つからなかった。奥に行くにつれ,扉の光が徐々に弱まる。
すんすん。クビワが鼻を鳴らしはじめた。なにか腹の足しになるものを見つけたのか。
「シッショ」なおも鼻を鳴らしながらクビワが言った。「なに?」
「何かいるぞ」
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