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アルジはミミと早急に話す必要があった。だがその願いはシンキの言葉によって打ち砕かれた。
「ごめん。ミミさん調子悪くて寝てるから,あと何日かそっとさせてあげて」
際限なくふりかかる仕事に加え,ショムの補助でクビワの治療にあたったのだ。無理もない。「食事はあたしが持っていくから気にしないで,あと」「あと?」「もし部屋の外で会っても声かけるのはやめてほしいの。ミミさん,自分が弱ってるの人に見せたがらないからさ。心配かもしれないけどせいぜい頭下げるくらいにしてくれるとうれしいな」「…わかりました」
「そうそう,アルジさん顔の怪我なんとかしたほうがいいよ。ちょっと不気味」そう言ってシンキは困った笑顔を見せた。人に会うたびに言われるが,それほどひどいのだろうか。
鏡を見て唖然とした。頬の部分が張り出て,あたかも掃除機で引っ張られたように顔が歪み,激しく鬱血している。シッショは小柄だが,その腕が繰り出す全力の拳にはこれだけの威力があるのだ。もっと手加減しろよ。
再び医務室を訪れると,ショムはミーティングに向かおうと準備していたところだった。あと少し遅れていたら間に合わなかっただろう。幸運である。
大きな湿布を顔に貼ってもらい,ひんやりした感触とぴりぴりする痛みが頬を襲う。軟膏の刺激が香りとして目に届き,不快である。ついでに額の傷も治療してもらうことになった。そのなかでアルジが「ミミさんが調子悪いそうなので,ショムさんも無理しないでくださいね」と世間話のつもりで言うと,ショムは「みんなが怪我しなければもっと暇になるかな」と苦笑いした。
「あ,そうそう。まだ書類にしてないんだけど,アルジさん達が採取してきた湿原の花で,わかったことがありますよ」ショムはアルジの症状についてすばやく記録しながら言った。
「藍穿樹のことですか」ケライに大怪我を負わせたあの大樹のことだ。ケライはその後の報告書で,その樹に藍穿樹シャクルワリムと名付けていた。「そう,それ。最初は樹木として報告されてたんだけど…」「草だったんですね」「そうそう。どうしてわかったの?」「マッパさんが採取した素材に年輪がなかったので」「さすがね」
湿原の人喰い大樹について,これまで語り手が名を伏せていたのは混乱を防ぐためである。当初の報告では藍穿樹として名付けられていたが,今回の分析でいくつもの花を咲かせる草本であることが明らかになったのだ。これにより,先の大樹は新たに藍穿『花』シャクルワリムという名で書き換えられることになる。名前に思い入れのある者のなかにはこうした変更を嫌がる場合があるかもしれないが,名付けたのはケライなので,それほど気にしないだろう。とはいえ,読者としては,早々に藍穿樹として覚えていたものが実は花なので藍穿花になります,といってもいちいち覚え直すのは面倒である。ゆえにここで名を明らかにしたわけだ。
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