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夕食で今後の方針にかんして説明があった。調査範囲の縮小はしないとのことだ。またボッチ団の調査も再開されることとなった。その目的は,森を迂回し安全に踏破するルートの発見である。

シッショ達は湿地を後回しとし,マッパが通過した地域について,その危険性を詳しく調査するよう命じられた。現在のところ湿原から北に向かうルートは三つあり,藍穿花の生える平地,針山,そして湿地となっている。藍穿花の落とし穴を区別できれば,大型モンスターの危険性が少ないこのルートが最も安全である。湿地は開拓できれば豊富な資源が期待できるが,クビワさえも歯が立たなかった「時を止める」能力をもつザエルが生息している。そして針山はマッパがまだ踏破していない謎の地域である。

アルジとケライはこれまでと同様に,それぞれボッチとシッショの下につくこととなった。アルジは裂掌獣ザエルについて多くの貢献があり,またケライは知識の伴わない二人を強力にサポートできる,ということだった。

ミーティングを通して大きく体制が変わったわけではない。未だこの地のモンスターに対して調査隊は非力であり,慎重に歩を進めるしかないのだ。

そして全員に強く言われたのが,新たな生物に遭遇したら注意のうえに注意を重ねるということだった。これはどこの世界でも基本ではあるが,とくにこの地域に生息するモンスターは,知識のないまま近付くと簡単に命を奪ってくる。その方法は実に多才であり,対策を講じなければ戦うことさえもままならない。あくまでも調査隊の目的は調査であり,強力なモンスターを倒すことではないのだ。

これらの決定はアルジにとって向かい風である。ミミが健在であれば,湿地のザエルに対するアルジの考えを披露し,戦術を練れていたかもしれない。勝ち気のクビワもきっと再戦を望んでいる。何よりアルジはその姿を見たい。だがそれは叶わない。目の前にご馳走が並べられ,手出しができないような苦しさである。

アルジの不満は顔に現れていたようだ。シンキは黙ってアルジの隣に座り,「がんばろ,アルジさん」と小声でささやいた。その様子をボッチは見ていたが,おそらくボッチがシンキを守るために,調査隊のなかでも戦闘能力,というか強敵への対処に慣れたアルジを自分のところに置いたのだろう。本来ならシンキを里で待機させておきたいだろうが,それは要らぬ罪悪感を持たせることになってしまう。それなら共に安全な場所を進みつつ,マッパが手つかずの地域に拠点を立てていけば,調査隊に貢献した実感も得られるし,今後のためにもなる。

さらに,アルジは未だ御しがたいような難点もあるが,これまでその行動が他人に大怪我を負わせるようなことにはならなかった。ボッチ団のなかでアルジが仮に暴走しても,自滅で済むとボッチは考えていたかもしれない。シンキやミミが自分から危険に足を踏み入れることもないだろう。

そうだ。これでいい。ボッチは,自分を守ろうとしたシンキが傷ついたことを今でも強く後悔している。そして,武器も持たずにザエルに立ち向かったアルジの勇敢さに,憧れと嫉妬のまざった複雑な感情を抱いていた。

まあ,アルジは勇敢だったのでなく,単にザエルを知りたいという好奇心が突っ走っただけのことなのだが,襲撃を受け周囲が恐慌状態にあっても不気味なほど冷静なのは奇妙なことでもある。



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