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「釣りという発想そのものは悪くありません。問題はその方法です」
何も食べていなかったから当然だが,ミミはケライを彷彿とさせる食欲でむしゃむしゃと食べながら説明と続けた。
「釣り針をひっかけるには甲殻が脆すぎるんです。短い時間であれば耐えられますが,雪灯籠の巨体を支えられるだけの負荷には耐えられません。」水を飲み,さらに続ける。「かといって身体が飛び出したところを横から切断するには,なめらかな表面を刃が滑ってしまいます」
「じゃあどうすればいいんだ」ボッチの言葉にミミが苛立ちの視線を向ける。それがお前らの仕事だろと言わんばかりだ。
「ショムさんの解析結果だと,」アルジが話を始める。「甲殻に細胞組織は含まれていないようですね」ミミがその言葉に頷く。「どういうことだ?」疑問を投げかけるボッチにアルジが答える。「甲殻は本体の分泌物で構成されている可能性が高いということです」
ボッチが眉間に皺をよせる。「素人にもわかるよう説明してほしい」
「私が最初に雪灯籠に遭遇したとき,やつは硬い鎧を持ち,雪山の基礎に根を張るモンスターだと思っていました。ですが,解析の結果,その鎧は実はやつが作った巣のようなものだとわかったんです。つまり,雪灯籠の正体は,何でも噛み千切る硬い口と,そこからは想像できないほど柔らかい身体をもつ,細長い生き物。いわば,雪山に生息する貝のようなものではないかと思っています」
「貝か。だとすればその鎧はさぞかしあったかいんだろうな」ボッチの言う通りだ。雪灯籠の貧弱な身体を守る甲殻は,加工さえできれば優れた断熱材になるだろう。
「巣と本体が密接に癒着していないのであれば,巣から本体を引きずり出すことができるんじゃないでしょうか。どうですか,ミミさん」アルジの問いにミミは少し考え,おもむろに紙に線を描き出す。
「たとえばこんな形なら本体を傷つけずに引っぱり出せるかもしれません」その装置はスギの木のような形をしていた。これを飲み込ませて引っぱると,枝にあたる部分が返しとなって,千切れずに本体を引き出せる。だが思いつきなので詳細を詰める必要がある。
「雪灯籠は身体をひっこめて抵抗するんじゃないのか」ボッチの問いにアルジがジェスチャーをまじえながら答える。「全てがそうだと言うわけではないですが,押す力と引く力が両方とも強い生物はそれほどいません。たとえば人間の手なら閉じる力は強いけれど,開ける力は弱いです。捕食のために雪灯籠は押す力を選んだので,引っぱる力はそれほどないのではないかと推察されます」
「お前はもう開けることも閉じることもできないけどな」と悪質な冗談を言った。ミミがあきれて何かを言おうとするのをアルジが目で制する。
「ミミさん,この装置を作るのにどれくらいの時間がかかりそうですか」「重量があるので,力仕事の得意な人が手伝ってくれるなら,一日もあれば」
「で,それを俺に頼むってのか?」マッパは苛立ちを込めた様子で言う。「お願いします。シンキさんとケライを助けるために,マッパさんの力がどうしても必要なんです」「お願いします,マッパさん」アルジとボッチは深く頭を下げて言った。
マッパは顔を上げた二人の目をじっと見た。信念を試しているようだ。そらしたら負けだ。耐えた。
「いいだろう。そのミミってやつのところに行けばいいんだな」やはり人の命が関わることにマッパは協力的だ。なんて頼りになるんだろう,とアルジは言葉だけでなく心のなかでも感謝した。問題は,マッパの外見上の特徴を片時も忘れてはならないということだ。
間もなく加工場でミミの悲鳴があがることになった。
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