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絶縁処置をしたアルジの義足は,足裏の厚みが増した。硬いクッションのようになっている。それだけでなく,全体的に弾力に富んだような感触だ。おそらく義足の質そのものが改善されているのだろう。
「どうですか?重くないですか」アルジの太股との接触を確かめながら,ミミが問う。「違和感はないです。まるでずっと昔から着けているような感じです」「それなら良かった」アルジの好意的な返事にミミも喜んだ。
それから義足の改良点についていくつか説明があり,もはや別物といってもいいほどの変化にアルジは驚いた。だがそれだけの偉業をなしとげたにも関わらず,ミミの顔は晴れなかった。
「あの,無茶しないでくださいね。危ないと思ったら,すぐ逃げてください」
「なんか前にも同じようなことがありましたね」そうアルジは答えた。そうだ。あのとき。オヤブンの反対を押し切って,ボッチ団を壊滅させた裂掌獣ザエルにたった一人で挑もうとしていたとき。
「あのときもちゃんと帰ってこれましたから,今度も大丈夫だろうな,と思います。というか,大丈夫だと思いたい」なんせアルジはまだ雷掌獣に遭遇したことはない。予想外のことが起き,即座に対応できなければ簡単に命を落とす。だがそれはミミにとって意地悪な返事に聞こえたようで,「もう,これ以上心配させないでください」と涙目になった。その様子はまたもシンキに見られていたようで,アルジはひどい説教を受けた。
ただアルジは不思議な気持ちであった。他人の命を道具として使うことをなんとも思わない者がいる一方で,こうして自分が危険に足を踏み入れようとするだけで涙を流してくれる者もいる。しかも自分が行おうとしている危険というものは,少なくとも今は自分の好奇心を満たすためのものでしかなく,不要な殺生をすることになる,かもしれないのだ。果たしてこれから自分が為そうとすることが必要なものなのかどうかはわからない。まあ,湿地は優れた農地になりうるし,そこで栽培を試みること等を考えた際,雷掌獣はその障壁であることは間違いない。それを取り除き,栽培が軌道にのれば里の生活は大きく改善される。だがそれさえもマッパからすれば意味のないことであるし,かといってマッパの道が妥当であるかどうかも誰にもわからない。
アルジが活かされていることは間違いない。だがこの地は,それへの感謝に対し「そうか。じゃあお礼にお前の命をよこせ」と平気で言ってくるような場所でもある。何かに感謝できるほどお前は偉くない,と言っているようでもある。謙虚が過ぎれば飢え死にするし,傲慢が過ぎれば食い千切られる。適度というのはアルジの最も苦手とすることでもある。ゆえに今は心の向くままを行くだけだった。
三尖槍をかつぐシッショ,籠手を腰に下げたクビワとともに,アルジは雷掌獣の待つ湿地へ向かった。その肩にはシッショとともに練習した武器がくくりつけられていた。
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